第17話 お能登さまとトンビ

 その日の午後、俺はパソコンとにらめっこし続ける羽目になり、お能登さまは何度も茶を淹れてくれた。というのも島の生物についての情報を選別しない限り、出会う動物生物としゃべっていてもきりがないからである。

「どっちみち鳥という鳥に聞くしかないのかな」

 散々調べて結局はほぼスタート地点と変わらなかった。せめて、親分のしゃべる鳥が言っていたその盗まれた親鳥本人に聞けばよかったのだが、その時点ではお能登さまの特殊能力を確認していなかった。となればもう一度現地へ赴くしかないのだが、時間はすでに閉館時間を過ぎており、行くとしても翌日以降となった。伸ばした背、肩、腕を戻すとお能登さまの姿が見当たらなかった。かと思うと、お勝手の戸が開いて閉まる音がした。

「今しがた聞いて来たのだが、例の卵とは断定できないが、人が記した模様のある卵を加えたカラスが北上するのを見た者がいた」

 近所に事情聴取に行っていたのか。というか、よくもまあその都合よく目撃者を発見できたものだ。

「ああ、確かに。よくもまあ見ていて、その上覚えていてくれたものだ」

 お能登さまは居間のダイニングチェアに座り、お茶を淹れた。実に優美に飲み始めた。念のため訊いておこう。

「誰……、何に訊いたんですか?」

 ためらいがちな口調が気になったのだろうか、

「そこにいたトンビだが、いけなかったか?」

 努めてあっけらかんとお答えになられた。いけないことはないが、そのトンビはしゃべるトンビじゃなくて、生物学的には普通のトンビなんだろうかな。

「トンビはトンビだったが」

 お茶を淹れ直していた。となれば、どんなふうにトンビとコミュニケーションしていたのだろうか。夕刻、和装の女性がトンビとコミュニケーションをしている、目立つなあ。しかもトンビ語とか使っていたら、目立つなあ。

「安心せい、志朗。ちゃんと見つめ合って語らい合った」

 つまりトンビ語は使用してないと、その代わりに口ほどにものを言う目でコミュニケーションをしていたと。夕刻、着物の女性旅人がトンビと見つめ合っていた、目立つというか噂が立たないといいなあ。

 懸念は今していても仕方ない、それよりも重要な情報が得られたのだ。明日以降の行動は島を北上しつつ、さらなる情報収集ということに決定したのだから。

 ちなみに数日後、燃えるゴミを朝出しに行くと、「都会の人はトンビがそんなに珍しいんかい」と笑われた。ほほえましく思われたくらいで済んで本当に心底安心した。

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