第15話 とりあえず

「ないですって。やっぱり手法変えないと、見つからないかもですよ」

 俺が結論を言うと、お能登さまはきょとんとしていた。林を出てまっさきに向かったのはトキの森公園の事務所だった。そこで事務員に尋ねた。産卵数と紛失または消失個数を。あの鳥が数字を人間が書いたなんて言っていたから、それならば朱鷺の卵(たぶん)はこの事務所なり、環境省の出張ってきている役人なりが管理しているだろうし、それこそいまやデータベース化しているはず。その過程で紛失数が二個あることが判明。鳥が言っていた数字を言い出すことはしなかった。なぜなら、俺がそんなことを知っている方が怪しいし、かえって事情聴取されかねない。だから個数だけを確認したわけだが、もしかしたらQRコードとかバーコードとかあるかと思ったがどうやらなさそうだ。これ以上の突っ込んだ質問は逆に職質されかねなくなる事態になるかもしれないので、誤魔化しつつ質問終了。

「巣から落ちることもあるし、カラスとかが狙う場合もあるそうで」

 飼育員に聞いたことをまんま伝書鳩並みに言っただけなのだが、お能登さまはあっけにとられている。

「なぜ、そのようなことを考えた」

「単に知らなかったからですよ。わざわざどっか行くならまだしもここには専門家がいますからね。それに絶滅寸前から個体数が増えたとはいえ、まだまだ繁殖とか孵化とか放鳥に人間が関わっているなら、管理として情報をまとめてあるのは普通ですよ」

 鷹揚に頷きながらお能登さまは聞き入っていた。俺の方が背筋がむず痒くなった。ここまで他人から目の前で明瞭に納得されたことはない。

「つうことでこの近辺なら飼育員が探しているから見つからないってことはない。なので、カラスまたは他の生物によって遠くに運ばれたという線が濃厚ですね」

 ここでしくった一つは、あの例の鳥に、いつ奪取されたのか確認しておくべきだったことである。聞きに戻るのはためらわれた。また林の中を歩くのは汚れるから嫌だし、でかいだけで怖いんだよ、あの鳥。よって時間経過は省いて、またはこちらで勝手に想定して捜索範囲を絞り込むしかない。てか、佐渡って山間部の方が多いんだよな。これで登山なんてことになったら、それこそお能登さまにお任せするしかない。

「志朗は随分聡明なのだな」

 前言撤回。お能登さまが行くところ地の果てまでお供しましょう。もちろんそうだ。しかし、まずは、

「昼飯にしませんか?」

 紅い車はトキの森公園を出た。

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