第12話 尾行

「志朗はここで待っていてもいい」

 ペットにステイを指示した主人の悠然さで外に出るお能登さま。ところで。「待っていてもよい」という許可は、待っていなくてもよいという意味を包含しており、それはついて行ってもいいと同義であり、「待っていてもいい」という指示を反故にしたからといって、課徴されることはないという屁理屈をほざくことができる。というわけでお能登さまを尾行することに。

 お能登さまは辺りを見渡すこともなく、レッドカーペットでも敷かれている様子でまっすぐに進んでいた。どこをか、林である。探検隊でなくとも、冒険譚を実行中の小学生ですら周りや足元を気にするというのに。

「志朗ついて来たのか」

 奥まって行く途中で立ち止まったお能登さまはため息を吐いた。忍者のように気配を感じ取ったのではない。足音がどうしても立ってましたから。とはいえ、怒り狂っている様子はない。咎める様子もない。ただあきれているようであった。

「何が起きても知らんからな」

 再び歩き出すお能登さま。何かが起きて逃げられない格好しているのはお能登さまの方なのに、それとも朱鷺よりも珍しい生物でも見られるっていうのだろうか。カブトムシはシーズンオフだけども。

 歩くこと五分強。確かに何かが起きているけれども、知らんと言わないでフォローくらいはしてほしい。それは林の中だというのに、妙に開けた上にどこから放射されているのかといぶかしくなるほど明るい地点だった。森の主ならぬ林の主から永遠の命を授けてもらうかのようなシチュエーションだったのだが、この場所でさえ度胆が抜かれたのに、そこにいた鳥――朱鷺に似ていたが、荘重さが並みではないし、並みでないのはそのでかさで、俺の身長より高そうだったからゆうに二メートルはある――が、

「ならば印を見せよ」

 しゃべりだして腰を抜かしそうになった。お能登さまが恭しく頭を下げて自己紹介を始めた時はドッキリを疑って、あたりをキョロキョロしてカメラの有無を確かめたが、疑いたいのはこの鳥がなぜしゃべるのかの方を優先するべきだ。

 お能登さまはおもむろに襟に手をかけて力を込めた。肩に入れ墨をした奉行の真似でもなさるのか、こんなところで、と思っていると、

「確かに。ではお能登殿」

 しゃべる鳥は何を確認したのかしれないが、お能登さまは襟を直して巻き物を鳥に献上。宮廷の侍女のような素行である。鎖骨のあたりに何があるのか興味というか好奇心が沸き立つのはいかんともしがたい。

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