第24話 国会議員  枝村志桜里

二枚の名刺に書かれていたのは

「衆議院議員 枝村志桜里秘書 杉田保夫」

「衆議院議員 枝村志桜里秘書 川口久雄」だった。

(杉田志桜里は、左派系野党新人議員、元在京テレビ局アナウンサー)


太郎は、厳しい顔のまま、衆議院秘書二人を見た。

「驚くべきは、あなたがたの意識と行動です」

「国権の最高機関たる国会議員の秘書が、喫煙のルール一つ守れない」

「臭い煙を、迷惑にも、かがされて注意すれば、逆ギレして、国会議員秘書の身分をカサに、脅しにかかる」

「自分たちを誇る前に、善良な市民であるべきなのでは?」


太郎の手厳しい注意を受けて、衆議院秘書二人の表情が真っ赤に変わった。(簡単に、完全にキレてしまった)


秘書杉田保夫は、再び革靴で、太郎のスニーカーを踏みつけた。

「俺たちに逆らうだと?この若造!」

「おいおい!身分のワキマエを知らねえのか!」

「お前は、国会議員に逆らったことになるぞ!」

「お前の勤め先を言え!そこに怒鳴り込んでやる!」


秘書川口久雄は、太郎の襟を強く掴んだ。(杉田保夫以上にキレやすいタイプらしい)

「お前、それとも無職か?」

「いい若いもんが、朝っぱらから仕事も無く、こんなベンチに座って」

「そうか、仕事が出来ないから、クビにでもなったのか?」

「馬鹿野郎!」

「クビになったようなマヌケ男が、国家のために働く俺たちに文句言えるのか!」


(いつの間にか、太郎たちの周囲に、100人程度の人が心配そうに集まっている)


騒ぎを聞きつけた(あるいは遠くから見ていたのか)、久我不動産事務所から、(太郎付き秘書)伊藤彩音が走り寄って来た。

その伊藤彩音の後ろから、ベージュのスーツ姿の若い女性も走って来る。


太郎は、伊藤彩音を見て、軽く右手をあげた。

「伊藤さん、ごめん、わざわざ」


伊藤彩音は、厳しい顔で、秘書二人に注意した。

「社長から、すぐに離れてください」

「抵抗したら、警察に通報します」


秘書二人は、応じなかった。

「はぁ?あんた誰?」

「社長って、こいつ?」

「おい!馬鹿にするな!」

「こんな無職野郎が、社長のわけがねえだろ!」

(秘書杉田保夫は革靴で太郎のスニーカーを踏み続け、川口久雄は首を締め始めた)


ベージュのスーツ姿の若い女性がようやく太郎たちの前に立った。

息を弾ませながら、秘書二人に声をかけた。

「二人とも、いい加減にして!」

「この人は、久我不動産の社長です」


秘書二人は、弾かれたように、太郎から離れた。

「え・・・マジですか?こんな若造が?」

「枝村先生、こいつが悪いんです、若造のくせに、俺たちに文句言うから」


太郎は、首を絞められた痛みが残っているらしい。

ゲホゲホしながら、声を出した。

「警察を呼んでください」

「国会議員とか秘書とか関係ない」

「公共のルールを守れず」

「注意した人に暴言と暴行を働く」

「そんな輩を野放しには出来ない」

(取り囲んだ人々から、拍手が起きている)


衆議院議員枝村志桜里は、明白な事実のため、反論が出来なかった。

涙目で、「本当に申し訳ありません」と謝る以外何もできない。


それ以上の声が出せない太郎に代わって、秘書伊藤彩音が衆議院議員枝村志桜里に言い渡した。

「迷惑行為により伊藤事務所との賃貸借契約を解除します、即刻退去願います」

(この言い渡しにも、取り囲んだ人々から、大きな拍手が起きている)

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