第22話 山田美鈴と島倉結は何もできず。

宿泊用のベッドを設置した太郎が、再びリモコンを操作した。

すると、天井に変化、そのまま仕切り壁が降りて来た。

二つのセミダブルベッドを仕切るように、部屋が二つ出来上がった。


太郎は、にっこりと笑った。

「ただのワンルームで広いようで、それだけではない」

「時々、締め切り前に編集者に泊り込まれるから、その設備を作った」

「もう、夜は遅い、後はご自由に、風呂にも入って」


山田美鈴と島倉結は、呆気に取られた。

「はぁ・・・」

「シックでいい感じの壁で」

(そんなボケた返ししか出来ない)


太郎は、風呂のスイッチを入れ、二人を風呂場に案内した。

大きくて上質な檜風呂だった。(もちろん、洗い場も広い)

シャンプー、リンス、トリートメントの種類も多く備え付けてある。


「編集者によって、使うメーカーと種類も違う」

「山田さんと島倉さん、ここにあるので大丈夫?」


山田美鈴は、ニンマリだ。

「あの・・・全部高くて、買えないのばかりですよ」

「恐れ多くも、使わせていただく感じです」

島倉結も同じようなもの。

「なんか・・・超高級ホテルみたいな・・・」


太郎はプッと意味深に笑った。

「編集者女子のご機嫌を取るためだよ」

「まあ、怖いから」

「かつては、数社かけもちで書いていたから、たくさん泊まり込み」

「でも、それも疲れてね、眠る時間もなかった」

「今は一社だけにした」


看護師山田美鈴は、頷いた。

「確かに、身体もあの当時は、壊れる寸前でした」

「胃炎も酷かった」

「体重も、ドンドン落ちていました」


島倉結も、その時期の太郎を知っていた。

「私、高校生でしたが、テレビに映るたびに、太郎先生痩せていて」

「すごく心配していました」


太郎は、そこで話を止めた。

「その原稿を書く」

「ひとりにして欲しい」


山田美鈴と島倉結は、邪魔することは出来なかった。

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