第4話 女子高生田中梨沙子②

「え?」

太郎が、田中梨沙子の(予想外の)「ニンマリ」にひるんだ一瞬だった。


「ブチュ!」

田中梨沙子の愛らしい唇が、(まるでタコのように)太郎の左頬に吸い付いた。

(しかも、しばらく吸い付かれた)


「西島洋子のオバサン毒を浄化したの」

田中梨沙子は、ニンマリと唇を太郎の左頬から離した。

そして太郎に反論チャンスを与えない。

「英語の試験は、完璧」

「太郎先生のご指導のお陰ですよ」

「そのお礼もこめて、梨沙子10号キスのプレゼントです」

(つまり、太郎は10回、梨沙子にキスをされている)


「はぁ・・・」

太郎がため息をついていると、田中梨沙子は、ますます図に乗った。


「肌荒れていますよ、もっと美肌のはずでしょ、太郎さん」

「食生活の乱れですよ、締め切りで食べられなかったとか?」

「そんな締め切りなんて、どうだっていいじゃないですか」

「それより、妻梨沙子との愛の生活に励むべきでは?」

(そのまま、美胸を腕に押し付けている)


「あのさ、梨沙子ちゃん」

太郎は、ようやく落ち着いた。

「幼稚園の頃から、梨沙子ちゃんを見ているの」

「僕が高校生で、梨沙子ちゃんが5歳」

「その妻とか何とかね」

「歳も離れすぎているしさ・・・」

「彼氏いないの?」

「どうして、こんな天気がいい日の、午後に古本屋に通って来るの?」

「ほとんど毎日だよね」


田中梨沙子の目が、途端に潤んだ。

「あの・・・旦那様」(いきなり旦那様に変わっている)

「そうやって、浮気でもしたいの?」

「梨沙子を離縁するつもり?」

「私のどこがいけないの?」

「酷い!」

「こんなに、お慕い申し上げておりますのに」

「キスするのは、いつも私から」

「旦那様からは、一度もなく」

「いつも子供扱いなされて」


太郎は、(いつもの常套句とは思ったが)、超美少女梨沙子の泣き顔は苦手である。

だから、いつもの通り焦った。

「あのさ、梨沙子ちゃん、可愛いよ、マジに」

「離縁も浮気も・・・よくわからないけど」

「そういうのは、ないから」

「付き合っている人はいないよ」

「時間的に計算すれば、梨沙子ちゃんと一緒が一番長い」

(実は、何も計算してはいないが)


田中梨沙子は、太郎の渡したハンカチで涙を拭いた。

「これ、もらいますよ」

「全く・・・妻を泣かせて・・・」

「今夜こそ、抱いてもらいますよ」


太郎は、また、土俵際まで追い詰められた。

下手に拒絶して、泣かれるのも困る。

かといって、「今夜こそ抱く」とは、「何ぞや」であって「犯罪行為」にも、なりかねない。


そんな時、救いのコールが入った。(太郎のスマホが鳴った)

「伊藤彩音です」

「あと3分で着きます」

「古書店ですよね」


太郎の顏が別人のように厳しくなった。

田中梨沙子は、太郎から、その身をようやく離した。

(実に悔しそうな顔になっている)

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