第3話 女子高生田中梨沙子①

久我太郎の昼食は、久我ビル1階の町中華「妙春」。

日本中、どこの町にもあるような、普通の町中華である。


太郎が西島洋子と入って行くと、店主星野信二(50歳)が渋い顔でお出迎え。

「太郎ちゃん、二日も来なかったから、心配したよ」

「もう・・・頬もコケて」

「どうせ何も食ってないんだろ?」


そのまま西島洋子をギロッと睨んで、トゲのある言葉。

「締め切りもわかるけどさ、太郎ちゃんは、書くだけの人じゃないよ」

「それ知ってるだろ?」

「あんたらの都合ばかり言うなよ」

「太郎ちゃんに身体壊されるほうが、よほど心配だよ」


太郎は、星野信二を手で制した。

「まあ、何とかなったから」

そしてシュンとなってしまった、西島洋子に、町中華メニューを渡す。

(太郎が炒飯、西島洋子が中華焼きそばを食べた)


町中華「妙春」を出ても、西島洋子はシュンとしている。

その上、太郎に謝って来た。

「確かに、書くだけの人ではない・・・それ、オロソカにしていました」


太郎は、何も言わず、久我古書店を開けた。

古今東西の古書5千冊以上、太郎が選び抜いた文化の粋の匂いが道路まで広がった。


太郎は、フランクに聞いた。

「西島さん、原稿読むだけ?」

西島洋子の顔が、パッと明るくなった。

「読みふけます、ここも大好きです」

「原稿読み終わっても、いてもいいですか?」

太郎が笑った。

「はい、読み終わったらお客さんだから」


西島洋子は午後2時まで太郎の原稿を読み、その後、午後3時まで、古本をあれこれ読みふけり、結局「古今和歌集全集」(3千円)を買い、K出版社に帰って行った。


その西島洋子がいなくなった直後、ショートカットの女子高生が久我古書店に入って来た。

まるでAI美少女のような愛らしさ、小柄ながらスタイルも抜群。

胸、ウェスト、お尻、脚もAI美少女と寸分違わない。

M大付属中野高校 (実は、久我太郎が一番手を焼いている)田中梨沙子(17歳)である。


「太郎様、愛しの妻が・・・まいりました」

「でも・・・あ・・・」

「柑橘系の香水?」

「安物?」

「年増女?」

(西島洋子が聞いたら、泣いて怒りそうな言いぐさである)


太郎は、弁解などしない。(女子高生にウソを言う必要もないので)

「ああ、K出版の西島洋子が原稿を取りに来て、ついでに本を買っていった」


田中梨沙子の愛らしい目に、途端に怒りの炎が宿った。

「何ですと?」

「ありえません」

「この妻に断りもなく?」

「年増のダレ女のくせに?」

(ダレ女とは、身体の線が、寄る年波でダレた、と言いたいらしい)


田中梨沙子は、そのままツカツカと歩き、太郎の隣にデンと座った。

「太郎さんの隣は、梨沙子です」

「身体に染み込ませましょうか?」(意味不明)(そのままお尻をブンとぶつけている)


太郎は、完全に押された。(すでに土俵際まで、押し込まれた感が、ある)

それでも、懸命に「土俵際でのはたき込み、あるいは突き落とし」を試みた。


「英語のテストだったんでしょ?」

「どうだった?」

(これで、土俵に手をつくのは、田中梨沙子のはず、そのタイミングでしかけた)


予想外のことが発生した。


「フフン!」

田中梨沙子は、ニンマリと笑っている。

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