第2話 編集者 西島洋子

久我古書店は、純喫茶アラビカの入っている8階建て「久我ビル」の隣にある。


久我ビルの1階は、純喫茶アラビカ、久我古書店、小料理屋「飛鳥」、中華料理(町中華)の「妙春」と並んでいる。

2階は、貸し会議場でカルチャースクールとして使われることが多い。

3階から8階までが、一世帯ごとの、(かなり広い)住居スペースになっている。

また、久我ビルの後方には、巨大マンション群(久我不動産の10棟)が建ち並んでいる。


午前11時、久我ビル8階住居のチャイムが鳴った。

「K出版の西島洋子です、久我太郎先生、原稿をいただきに伺いました」

(上質な紺のスーツ姿の上品な美女、スタイルも完璧)


すぐに玄関ドアが開いた。

風呂を済ませた太郎が、封筒を持ち、顔を出した。

「出来ていますので、お持ち帰りください」


西島洋子(26歳)は、意味ありげな笑顔。

「あの、ここで読ませていただいても?」


太郎は、両手で西島洋子を制した。

「男一人の部屋に、こんなきれいな女性を」


しかし、西島洋子は引かない。

「掃除でも洗濯でもいたします」

「・・・たまっていません?」

「ねえ・・・ここで押し問答も何ですから」


太郎は結局、西島洋子の「押し」に負けた。


西島洋子は、ポンポンと靴を脱ぎ、そのままうれしそうにリビングに進みソファに座った。

読むはずの原稿をバッグにしまって、「生活の指摘やら何やら」を始めた。

「前回のお掃除はいつです?」

「食器も・・・あれ?いけませんねえ・・・」

「だから、ここに越して来てお世話しますって、何度も申し上げましたよね」


太郎も懸命に抗弁をする。

「私の生活ですから、私が責任を持ちます」

「それから原稿を読まないのでしたら、帰ってください」

「午後から私も別の仕事ですので」


西島洋子は、ソファをスッと立ち、向かいの太郎の隣に座った。

「いいですか?太郎先生」(ここでお尻を密着させた)(太郎は顔を赤くした)

「ほら、緊張しない、そこで」

「太郎先生のエッセイを好きな女性、心待ちにしている女性が、すごく多いんです」

「恋心に目覚めた女の子から、昔日の愛を思う高齢女性まで」

「それだけ期待されている先生が、もし健康を壊されたとなったら・・・」


太郎は、スルスルと西島洋子から身体を離した。

真面目な顔で、言い切った。

「あの・・・もう11時半です」

「店の準備も必要です」

「ご用件は、メールで結構です」

「今後は、原稿もメールで送ります」


西島洋子は、顏を蒼くした。

「私、ここに来て、太郎先生とお話することだけが、生きる力なんです」

「そんな冷たいこと、言わないでください」

「お仕事・・・久我古書店ですか?」

「私も伺います、そこで原稿を読ませていただきます」

(そのまま太郎を背中から抱きしめた)


太郎は、(そこまでされて)笑った。

「なんか、ムニュムニュして、いい感じです」

「・・・これ・・・ネタにしてもいい?」


西島洋子は抱きしめを強めた。

「はい、Gカップですよ」

「滅多な女には負けません」


太郎は、スルッと西島洋子の腕と胸から脱却した。

「その前に、炒飯を食べるけど」


西島洋子は、太郎を再び「捕獲」した。

「逃しませんよ、ご相伴します」

そのまま太郎の耳をしゃぶっている。

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