第7話
奈々と一緒に誕生日を過ごしてから、あっという間に時が流れて、気づけば夏休み前の期末テスト期間がやってきた。私たちにとってこのテスト前になるとと私たちはいつも一緒に勉強会をすることにしている。
奈々がうちにやってくるのは今回が初めてではない。けれども、高校生になって……奈々への気持ちを自覚してからうちに呼ぶのは初めてでほんの少しの緊張と恥ずかしさを感じてしまう。
「美咲~、来たよ!」
奈々の元気な声が玄関に響く。ドアを開けると、いつもの笑顔を浮かべた奈々が立っている。その明るい表情を見ると自然と私の顔もほころぶ。
「おかえり、奈々。さあ、早速始めようか?」
私は笑顔で奈々を私の部屋へとに招き入れる。彼女は慣れた様子でカバンを下ろし、テーブルに教科書やノートを広げ始めた。奈々にとって、この空間はまるで自分の部屋のようにリラックスできる場所なのだろう。
「ねえ、美咲、まず何からやる?」
奈々が私を見つめて問いかけてくる。その視線はいつもと変わらないはずだけれど、私にはそれが何だか愛おしく感じられる。奈々の瞳がまっすぐに私を見つめるたびに、胸の奥が少しだけ熱くなる。
「じゃあ、まずは数学から始めよう。ここが重要なポイントだから、しっかり理解しておかないとね」
私がそう言うと、奈々は少し困ったような顔をしながらも、素直に頷いた。数学は奈々が最も苦手な科目だ。
だからこそ、私がしっかりとサポートしてあげなければと思う。
勉強を始めてから奈々は何度もわからない箇所にぶつかり、そのたびに私に助けを求めてくる。彼女はすぐにくっついてくるが、彼女の香りや温かさが近くに感じられるたびに、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚になる。こんなふうに彼女に触れられるたびに、私の中の気持ちがどんどん大きくなっていくのがわかる。
勉強を続けながらも、奈々が時折見せる集中力を欠いた表情に気づくたび、私は微笑んでしまう。彼女がこんな無防備な姿を見せるのは、きっと私の前だけだと思うと、私も少しだけ特別な存在でいられるような気がして、心が温かくなる。
「奈々、大丈夫?」
私は心配そうに声をかける。奈々は顔を上げ、少し照れくさそうに笑った。
「うん、大丈夫。ただ、なんか気が散っちゃって……」
奈々の困った顔を見ると、何だか私まで気が緩んでしまいそうになるけど、ここで気を抜いてはいけない。奈々がちゃんと勉強に集中できるようにしなくては。
「じゃあさ、テストが終わったら遊びに行こうよ。そうすれば、もっと頑張れるでしょ?赤点を取ったら補習で夏休みとかも遊びに行けなくなっちゃうし」
私がそう提案すると、奈々の顔がぱっと明るくなった。
「え、ほんと?それなら頑張れるかも!」
奈々がニッコリと笑いながら言った。その笑顔を見ると、私の胸は高鳴ってしまう。こんなに素敵な笑顔を見せられたら、何だってしてあげたくなってしまう。
「うん、約束だよ。だから、一緒に頑張ろうね」
私は奈々の小指に自分の小指を絡ませて、笑顔で約束を交わした。奈々も嬉しそうに頷いてくれる。その姿が愛おしくてたまらない。
その後も勉強を続けるうちに、奈々も少しずつ理解を深めていったようで、問題を解くスピードも上がっていく。私が教えている間、彼女は真剣に話を聞いてくれる。その姿を見るたびに、私はやっぱり奈々のことが大好きなんだと改めて感じる。
奈々が何かに一生懸命になっている姿を見ていると、自分もその頑張りを支えたいと思う。そんな気持ちが私を突き動かしている。
「美咲、本当にありがとう。いつも助けてもらってばかりで」
奈々が少し恥ずかしそうに言った。その言葉に、私の心は温かくなった。彼女が私に感謝してくれるなんて、そんな当たり前のことがどうしてこんなに嬉しいのだろう。
「こちらこそ、奈々と一緒に勉強できて楽しいよ」
私はそう答えて微笑んだ。奈々も笑顔で返してくれる。私たちの間に流れる穏やかな時間が、何よりも幸せに感じる。
「よし、ちょっと休憩しようか。お茶を淹れてくるね」
休憩中、私たちはお茶を飲みながら話をした。奈々がリラックスした様子で、私に話しかけてくれるその瞬間が、とても特別なものに感じられる。
「美咲って、やっぱり優しいよね」
「そうかな?でも、奈々が頑張ってくれるから私も嬉しいんだ」
そう答えると、奈々は嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔が、私の心はすぐに反応して心拍数を上げる。一緒にいると奈々が見せるちょっとした仕草や表情の変化に、私の胸はおかしくなってしまう。
休憩を終わらせて再び勉強に戻ると奈々も再び集中し始めた。彼女の真剣な表情を見ると、私も頑張らなきゃと思える。だが、奈々のその表情に見惚れてしまい、自分の勉強に手を付けられなくなっていると奈々が私の視線に気がついたのか顔を上げた。
「そんなにこっちを見てどうかしたの?何か間違えてた?」
「うんん、特にそういうわけじゃなくて、頑張ってるなって思ってさ」
「そりゃ、美咲とのデートがかかってるからね!」
そのデートという言葉に、私はドキリとした。デートという言葉が、何か特別な響きを持って感じられる。それがただのおふざけであると分かっていても、私はどうしても心の中で期待してしまう。
彼女の何気ない一言が、私の中でどれほど大きな意味を持つのか、きっと奈々は知らない。それでも、私はそんな些細な言葉にまで心を揺さぶられてしまう自分がいる。どうして私はこんなにも彼女の一挙一動に反応してしまうのだろう。
そこからはお互いに集中して勉強ができ、気が付けば窓の外の景色は夕暮れのオレンジ色になっていた。
奈々の集中も限界が近いだろしそろそろ今日は終わりにしようと声をかけた。
「だいぶできたし、時間もいい感じだから今日はそろそろ終わりにしようか」
「もうこんな時間だったんだ!そろそろ帰るね!今日は本当に助かったよ」
帰宅の準備を終えた奈々を玄関まで見送るときに「テストが終わったら、絶対に遊びに行こうね」と笑顔で言ってくれた。
「うん、絶対に行こうね。約束だよ」
私は奈々を見送りながら、少し寂しさを感じつつもテスト後のデートに心を躍らせていた。
部屋に戻っても、奈々の笑顔が頭から離れない。私は彼女のことがこんなにも好きなのだ。彼女と一緒にいると、世界がキラキラと輝いて見える。
奈々が私にとってどれほど大切な存在か、これからもずっと彼女に伝えたい。だけど、今はまだそのタイミングじゃない。私の中で何かがそっと告げている。
「奈々、私はあなたが好きだよ」
心の中でそっと呟きながら、私は窓の外の夕焼けに目を細めた。
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