第40話
一方そのころ、お城の円卓の間では緊急会議が開かれていた。議題は言わずもがな。僕たちの事である。
円形のテーブルを囲んでいるのは十人の男女であった。倉科を始めとする古典的冒険者一味。頭に冠を戴いた王と王女らしき二人。残りの四人はそれぞれ個性的な恰好をしていたがそばに武器を携えているところを見ると、彼らも冒険者なのだろう。
王が豊かなアゴヒゲを撫でながら倉科に訊ねた。
「つまりは水色の少女が神話生物―――ショゴスであるというのだな?」
その場にいた全員に緊張が走った。存在は信じられずとも脅威は理解している。未知の危険生物を相手に作戦会議を開いているような、予断を許さない緊張がそこにあった。倉科が頷くと王は「そうか」と呟いて
彼らはショウへの対応について協議していた。
個性的な恰好をした冒険者のうちメガネをかけた聡明そうな男が挙手をして発言した。
「神話生物ショゴス。それがいま、この城にいると言うのですか?」
「そう考えて良かろう。クラシナ。
「はい。女神様はたしかにそう言いました。それを駒谷くんが従えているとも言っていました」
「伝説のとおり……と。しかし、駒谷とやらは魔術師では無いのでしょう?」
メガネの言葉に幾人かが頷いた。どうやらショゴスという生物について共通する認識があるらしい。それを確かめるように見渡したメガネはまた満足そうに頷くと言葉を続けた。「伝説によればショゴスを操ったのは魔術師です。普通の人間が従える事など不可能に思うのですがね」
メガネの隣に座っていた女性がぽつりと呟いた。「聖なるスライムの伝説……」
「ショゴスは我が国に古くから居座る邪神。しかも封印されながらも無責任に世界を広げているという話じゃないですか。伝説が確かならば、なぜ異世界から来た少年がショゴスを従えているのでしょう?」
「それが分からんのだ」
頭にバンダナを巻いた上裸の男が口を開いた。「その駒谷ってやつは何者なんだ? どこからいつやってきて、なぜ神話生物を手懐けている?」
「駒谷くんは僕の友人です。普通の人間のはずなんだけど、でも、彼なら何となくやってのけそうな気がする……」と言い、倉科は責められているわけでもないのに俯いて頭を掻いた。「底知れないっていうかどんな人にも臆さないっていうか。偉い人とか強そうな人にはトコトン強気で見下したりもするけど、でも、立場が弱い人にはたまに優しくて、そういうところが頼れるっていうか……」
「つまりはただの人間ってこと?」と
「うぅ、ごめんなさい……」
倉科がうなだれて場は沈黙した。
一座は困っていた。というのも倉科が大切な情報をすべて握っているにも関わらず発言をしないから議論を進めようにも進められないのだ。メガネの男は不満そうに鼻を鳴らし、バンダナの男は机を指で叩く。悪い雰囲気が蔓延し冒険者たちは苛立ちを募らせていった。見かねた王が再び口を開いた。
「して、女神様は何と申された? ショゴスを捕らえよと、そう申されたのだな?」
倉科はまた頷いた。
それを見た王もまた安心したように頷いた。
「うむうむ。であるならば、コマタニをこの城に歓待しよう。無用な血を流すことなくショゴスを捕らえられれば女神様もお喜びになるだろう。だが―――」
王が言葉を続けようとしたとき、円卓に乱入してくるものがあった。
その者は息を切らせて扉を開け放つと喉から絞り出すように叫んだ。「大変です! ロンダールの村で大規模な落盤事故が発生しました!」
「なんだと? 怪我人はおるか?」
「怪我人は確認されていません。ですが、一つ気になる報告が……」
と言い、乱入してきた従者は王に耳打ちした。
冒険者たちがソワソワして待っていると、王はにわかに表情を強張らせ「あい分かった」と従者を帰らせた。
「いったい何があったのですか?」
メガネの男が訊ねた。
「ロンダールの落盤現場から遺跡が見つかったらしい。その遺跡は壊されてしまっていて進入が難しいそうだ」
「それってつまり……」
「うむ。ショゴスを封印していた遺跡が何者かに破壊されていたのだ」
「おいおいマジかよ……」
一座に
「よその世界からズケズケやってきてカミサマを連れ出したあげく遺跡まで破壊していくたぁ何様のつもりだ?」
「本当……ねえそんなヤツ処刑するべきなんじゃないの?」
やいのやいのと現地人が口々に不満を漏らした。自分たちの世界で好き勝手されたくない気持ちは分かる。迷惑観光客に憤慨するのと似たようなものだろう。
王は手を挙げて場を制すと「調査をする必要がある」と重々しく言った。
「落盤事故の調査及び遺跡の破壊状況の調査をする必要がある。落盤事故の調査には複数で当たってもらうため調査隊を編成したのち組み分けを伝える。だが遺跡の調査にはクラシナたちが当たってくれ」
「僕たちですか?」
「うむ。その調査にコマタニらを連れて行ってほしいのだ」
「駒谷くんを?」
倉科は困惑したが内心嬉しそうだった。「分かりました。一緒に行きます」
「うむうむ。彼が本当に遺跡を壊したのかどうか、私には疑問が残るのだ。友人ということであれば真実を話してくれるだろう。頼めるな?」
「はい!」
その場はそれでお開きとなった。倉科たち一味は円卓を後にし、他の四人は残った。
倉科が出て行ったことを見届けると王はとたんに声色を変えた。
「さて、お前たちにはショゴスの始末を頼みたい」
「……良いのですか?」
「調査中、不慮の事故に遭った。そういうことなら仕方があるまい」
「…………………」
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