第38話
王都リウェルドームというのがこの国の要となる都市らしい。
僕たちは倉科を連れて帰る事を諦めて街に案内してもらう事にした。どうせ来たのだからショウの記憶喪失問題も進めた方が効率が良い。「泊まる場所が欲しい」と言うと倉科は喜んだ。よぞらもしぶしぶ付いてきた。
リウェルドームは異世界モノによくある中世イギリス風の城下町であった。石レンガで作られた街並みはシンプルながら心躍るものがあり、レストランやホテル雑貨店銀行などの看板が色彩にアクセントを加えている。王の住まう城が小高い山の中腹にある。道中、僕は建築様式などを楽しみながら歩いた。
「どう、なかなか良いところでしょ? 僕は気に入っているんだ」
聞けば、倉科はここで目覚めた後すぐに魔物に襲われたそうである。例の手紙を読んだのち気が付けば不思議な白い世界にいた。女神を名乗る少女と出会い、「あなたは善行を積んだにも関わらず不遇な人生を歩んでばかり。私が救って差し上げましょう」というお決まりの文句とともにチートを授かり、世界の救済を無理強いされたのだという。
「あのときはビックリしたなあ。気が付いたらいきなり目の前にドラゴンがいたんだもん。思わず振った剣が当たったみたいでどうにか助かったけど、女神様からチートを貰ってなかったらどうなってたことか」
「はあ……」
「あれ、変な顔してどうしたの?」
都の住人は倉科を見ると口々に感謝を述べた。彼が倒したドラゴンというのが昔からこの辺りを根城にしている厄介者で、誰もが困っていたらしい。「僕の活躍を君にも見せたかったよ」などと言いながらへらへらする友人に周囲の人間が頭を下げている。僕は複雑な気持ちだった。
「君はこの世界に住みたいか?」
「さあ、どうだろう。みんなが僕の事を褒めてくれる。君はスゴイ、頼りになるって。でも、そのたびに駒谷くんの顔が浮かぶんだ。しかめっ面をした君の顔がさ」
そう言って倉科はしかめっ面を再現して見せた。「こんなふうにね」
やがてお城にたどり着くと僕たちは客室に通された。
一見すると客室は現代と同水準の文明を有しているように見えた。世界史の教科書でしか見たことが無いような豪華で使いづらそうなテーブルとイスが部屋の中央で存在感を放っている。部屋の隅にはクローゼットがあり窓辺に化粧台が備え付けられており、ダブルベッドは天蓋付き。しかしところどころ物足りなく感じるところはあった。イスは固く、ベッドはぺたんこ。よぞらが宿泊先に現代を選んだ気持ちがよく分かった。
僕はそれらを見回すと、よぞらに「いったん帰ろう」と提案した。
「まあそうなるよね」
よぞらはため息をつくとゲートを開いた。
これから何が起こるにしても巫に報告すべきである。僕たちの命はアイツ次第で簡単に無くなってしまう。アクシデントにより仕事を一時中断したこの現状をサボりあるいは裏切りと捉えられたらどうなる事か。
ところがよぞらは「そういう事なら、なおさらアンタはここに残った方がいいんじゃない?」と言った。
「なぜ。僕も帰りたいのだが?」
「世界を行き来できるのはあたししかいない。だからあんたを残しておくことで仕事を放棄したわけじゃないってアピールするのよ」
「それが良いとオモいます」とショウも頷いた。「あんたは一緒にのこりましょう」
「しかし巫に知られることになる。せっかく出し抜いたのにわざわざ教えるような真似をする必要があるか?」
「それも心配ないわ。もうバレてるから」
「マジ?」
「余興はハプニングが多い方が面白いってさ。あたしたちの事をなんだと思っているのかしら?」
そう言ってよぞらがゲートに消えていった。僕はショウと並んでベッドに座り彼女の帰りを待つ事になった。
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