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 「もうすぐお生まれになりますよ」と言う看護婦の声が、日に日に現実味を帯びてきました。男の腹は膨れ、血管が浮き出るようになっていました。

「先生。俺はどういった状態なのでしょうか? このままでは腹が裂けそうです。食事も取れずにいます」

「少し珍しい病で――」

「何度同じことを言うつもりですか! そろそろ教えてください!」

「あなたの胃の中には――胎児がいます」

 あたくしはここで初めて彼に説明をいたしました。今思えば、もっと初期の段階で説明をすべきだったと思います。堕胎するようにも言えたはずなのです。あたくしは、今になって後悔いたしました。あの時、胃の中の子を殺しておけば良かったと――それが無理だったとしても――男が自殺する可能性もありましたので――世界に放たれることだけ避けられれば良かったのだと――命を助ける側の医者が思うことではありませんが――――今では思うのです。

 彼は、あたくしの一言で何も言わなくなりました。急に菩薩のような表情になり、自らの腹を愛おしく撫でたのです。そして「よしよし」と甘い声で語りかけているのです。

 あたくしの一言で、トドメを刺してしまったに違いない。彼は、精神疾患者となってしまったのです。目をドロンと曇らせて視線はふらふら泳いだまま。それだというのに、表情は菩薩のように穏やかで、慈悲深く、愛しい我が子を撫でる母親のようでございました。

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