プロローグ 魔法学園入学試験編 6

 ルミナは指定された面接会場へ向かうため、学園の廊下を歩いていた。試験も佳境に入り、面接は最終試験であることを彼女は知っていた。心の中で何度も面接の質問をシミュレーションしながら、足を進めていたが、緊張と不安はどうしても拭えない。


 廊下の途中に差し掛かると、古びた絵画や歴史的な資料が展示されているスペースがあり、その奥にひとりの老人が立っていた。白髪で、しわが深く刻まれた顔、穏やかな眼差しを持つその老人は、70代前半くらいの年齢に見えた。


「お嬢さん、少しお話ししようかね。」


 突然の呼びかけに、ルミナは驚いて足を止めた。老人は微笑みながらルミナを見つめている。何かに引き寄せられるように、ルミナはゆっくりと老人に近づいた。


「君の実技試験、サイラスとの対戦を見ていたが、非常に見事だったよ。」


 老人の言葉に、ルミナは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに礼を言った。「ありがとうございます。」


 しかし、彼女の顔にはまだ不安が残っている。彼女は少し顔を伏せ、正直な気持ちを打ち明けた。「でも、私…魔力量が他の受験生よりも少ないんです。それが原因で、試験に受かるかどうか…」


 老人は静かに頷きながら、優しい声で語り始めた。「確かに、魔法の世界では魔力量が重視されることが多い。魔力量は一朝一夕に増やせるものではないからね。しかし、それだけが全てではないんだ。」


 ルミナは顔を上げ、老人の話に耳を傾けた。


「かつて、ある男がいた。彼は魔力の扱いには非常に長けていたが、魔力量が低く、周囲からは3流の魔法使いと見なされていた。しかし、彼は魔力量に頼らず、自分の才能を信じた。その才能とは、商才だったんだ。」


 老人は少し懐かしそうに笑いながら続けた。「その男は、魔法使いとしての力ではなく、商売の才覚で成功を収めた。魔法の道具を作り、交易を通じて大きな富を築いたんだ。最終的には、魔法の世界で非常に重要な地位を築いた。」


 ルミナはその話を聞いているうちに、自分の胸の中にあった不安が少しずつ和らいでいくのを感じた。


「魔法の世界には、様々な才能が必要なんだ。魔力量だけが全てではない。君にも、自分にしかない力があるはずだ。それを信じてみるといい。」


 老人の言葉は、ルミナの心に深く響いた。彼女は目を潤ませながら微笑み、感謝の気持ちを込めて言った。「ありがとうございます。そのお話を聞いて、少し自信が湧いてきました。」


 老人も微笑み返し、軽く頷いた。


「さあ、面接が待っているよ。君の力を信じて、全力で挑みなさい。」


 ルミナは一礼し、再び面接会場へと歩き出した。老人の言葉を胸に刻み、彼女の足取りには少し自信が戻っていた。面接に向かう途中、彼女はふと振り返ってみたが、老人の姿はもうどこにも見えなかった。


 面接会場に近づくと、ルミナは心の中で深呼吸をし、気持ちを整えた。


「私にもできることがある。自分を信じてやってみよう。」


 彼女はしっかりとした足取りで、面接会場の扉を開けた。



 ルミナは面接室の前で深呼吸をし、心を落ち着かせていた。これがセリオス学園での最終試験だった。これまでの試験を乗り越えてきたが、まだ安心することはできない。軽くドアをノックし、招かれるままに部屋へ入ると、そこには三人の面接官が待っていた。


「ルミナ・フォーサイトです。よろしくお願いします。」


 彼女は深くお辞儀をし、指定された椅子に腰を下ろした。面接官たちはそれぞれ穏やかに微笑みながら、ルミナにいくつかの質問を投げかけた。試験での印象や魔法に対する姿勢、そして学園で何を学びたいか、将来の目標など、基本的な内容だった。


 ルミナはできるだけ落ち着いて答えるよう努めたが、心の中ではまだ緊張が解けない。面接官たちは彼女の答えに穏やかに頷きながら、最後には激励の言葉をかけてくれた。


「面接はこれで終了です。次の試験生の準備をお願いします。」


 面接官たちの言葉に促され、ルミナは静かに立ち上がって一礼し、部屋を後にした。面接自体は思ったよりも短く感じたが、全てを終えたことで一気に疲労が押し寄せてくる。


 ルミナは面接室から出て、学園の庭を歩きながら深く息を吐いた。これで全ての試験が終わった。今はただ、結果を待つしかない。明日、セリオス学園の庭に掲示される合格発表が、全てを決めることになる。


「どうか…」


 ルミナは祈るような気持ちで、空を見上げた。自分がどれだけの力を発揮できたのか、自信はなかったが、それでも全力を尽くした。あとは、運命に身を委ねるしかない。


 合格発表の日がやってきた。


 セリオス学園の広い庭には、朝早くから多くの受験生が集まり、緊張感が漂っていた。合格者の番号が掲示される掲示板の前には、既にたくさんの人が集まっている。期待と不安が交錯する中、銀髪の少女ノエル・エヴァレットは、静かに自分の番号を探していた。


 彼女の表情はいつもの無表情だが、その心の中では不安と緊張が渦巻いていた。魔力は強大でも、合格できるかどうかは別問題。自分の力を信じながらも、結果を目の前にして緊張せざるを得なかった。


 その時、急ぎ足で駆け寄る音が聞こえた。ルミナ・フォーサイトだ。彼女もまた緊張の色を隠せない様子で、掲示板を見上げるノエルに気づいた。


「ノエルさん、来てたんだね!一緒に探そう!」


 ルミナはそう声をかけ、二人並んで掲示板に目を向けた。二人の目は、次々と並ぶ番号を慎重に追っていく。ルミナの心臓は高鳴り、手に汗がにじむ。彼女の胸の中には、不安と期待が入り混じった感情が渦巻いていた。


 そして、ついにその瞬間が訪れた。ルミナの目が自分の番号を見つけた瞬間、喜びが一気に溢れ出した。


「見つけた!私、合格した!」


 ルミナは大きな声で叫び、隣にいたノエルに飛びつくように喜びを表現した。ノエルは驚きながらも、彼女の喜びを分かち合おうと努めた。しかし、ノエルの表情は依然として固いままだ。


「ノエルさんの番号も探そう!」と、ルミナは掲示板に再び目を向け、ノエルの番号を探し始めた。


しばらくして、ルミナはノエルの番号を見つけ、歓声を上げた。


 「ノエルも合格してるよ!」


 ノエルは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、その後、少しだけ微笑んで「ありがとう」と短く返した。その笑顔は、普段見せることのない、柔らかな表情だった。


 二人はお互いを見つめ合い、自然と笑みがこぼれた。合格の喜びが二人を包み込み、温かな感情が心に広がっていく。


「お祝いに街へ行こうか?」


 とルミナが提案すると、ノエルは静かに頷いた。


「うん、行こう。」


 二人は手を取り合いながら、学園の門を抜け、街へと向かって歩き始めた。これから始まる新たな学園生活、そして未知の冒険に胸を膨らませながら、彼女たちは未来への一歩を踏み出した。


 こうして、ルミナとノエルの新たな物語が始まった。


プロローグ、魔法学園入学試験編、完

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