プロローグ 魔法学園入学試験編 5
「次、ルミナ・フォーサイト!」
試験官の声が響き渡る。ルミナは一瞬緊張で足がすくむが、すぐに自分を奮い立たせ、サイラスに向かって歩みを進める。心臓が高鳴り、手には冷や汗がにじむ。彼女は自分の実力が他の受験生に比べて魔力量が劣っていることを知っていた。だが、今できることを全力で試みるしかないと決意を固めていた。
「よろしくお願いします。」
軽い挨拶を交わし対戦が始まる。
開始の合図と共にルミナは一瞬の躊躇もなく、サイラスに向かって走り出した。魔法を発動させることなく、ただ一直線にサイラスに向かって行く彼女の行動に、試験官や受験生たちは困惑した。
「何を考えているんだ…?」
サイラスもまた、彼女の意図を測りかねたが、冷静に彼女の動きを見る。ルミナの前進を止めるため、威力を抑えた魔法を数発放つ、ルミナはそのすべてを速射魔法で正確に迎撃した。その素早さと精度にサイラスは一瞬驚きを見せたが、すぐに笑みを浮かべた。
(この速さと精度…ただ者じゃないな。)
ルミナは接近すると、サイラスが防御魔法を展開するのを見て、迷いなく杖を防御障壁に触れさせた。その瞬間、観客たちは驚きの声を上げた。ルミナは防御障壁に魔力を流し込み、魔法構成陣を一部書き換え、小さな穴を開けたのだ。
「何…?」
ルミナはその隙を逃さず、速射魔法を撃ち込んだ。小さな穴を通してサイラスに向かう魔法。サイラスは瞬時に新たな防壁を張り直し、間一髪で防ぐことができたが、ルミナの思い切った行動に感嘆の表情を浮かべた。
「見事だ…!」
サイラスは対戦の終わりを告げようとしたが、言葉を飲み込んだ。ルミナが次の魔法を発動させようとしていたのを見たからだ。
次の瞬間、ルミナは再び魔法構成陣を描き出し、白い霧を吹き出させた。霧が急速に広がり、視界が遮られる。サイラスは冷静に対応し、次に何が来るのかを予測しようとした。
ダリウスとの対戦ではダリウスは視界を奪った後に背後にまわりこみ風の刃の魔法を発動させ斬りかかってきたことを思い出す。サイラスは背後に注意を向けた。
しかし、次に起きたのは予想外のことだった。地面が崩壊し、サイラスの足場が崩れる。ルミナは視界を奪った後すぐに土魔法を発動させダリウスの下にある土を移動させたのだ。サイラスはすぐに風魔法を使って空中に退避したが、その瞬間、身にまとっていた風の防壁に衝撃が走った。ルミナの速射魔法が着弾したのだ。
(彼女、なかなか戦い慣れているな。)
サイラスは内心感嘆する。
サイラスは風魔法の威力を上げ、周囲の霧を吹き飛ばすと同時に、視界を回復させた。だが、ルミナの姿は見当たらない。
「上か…!」
サイラスが気配を感じて上を見上げると、ルミナが風魔法で飛翔しサイラスの上空に移動しているのを発見した。彼女は自由落下しながらサイラスに接近してくる。左手には杖、右手には風魔法で生成された小さな刃が握られていた。
サイラスは再び防御魔法を展開し、防御に入った。ルミナは杖を防御魔法に触れさせ、再度魔力を流し込み防御魔法に穴を空けようとしたが、今度はサイラスがしっかりと強化した防御魔法だったため、崩すことができなかった。
落下していたルミナは防御魔法にぶつかり、体勢を崩しながら地面へと落下していく。風魔法を発動し落下を止めようとしたが、サイラスの防御魔法にぶつかった衝撃でうまく発動させることができず、ルミナの体は地面に迫っていた。
「危ない…!」
観戦していた受験生たちから悲鳴があがる。
サイラスは瞬時に魔法を発動し、ルミナを地面に衝突する寸前で優しく浮かび上がらせた。
サイラスはルミナを優しく地面に降ろし、その場の緊張が少し和らいだ。観戦していた受験生や試験官たちから、ルミナの戦いぶりに対する称賛の声が上がっていた。
「素晴らしい戦いだった。君の発想と勇気には感心したよ。」
サイラスは微笑みながら言葉をかけた。ルミナは深呼吸をし、息を整えながら礼を返すが、その表情には悔しさが浮かんでいた。
「ありがとうございます。でも、まだまだ未熟です…。」
サイラスは彼女の謙虚な姿勢に頷きながら、優しく問いかけた。
「君の魔法の使い方、特に防御魔法の構成を書き換える技術や、視界を奪ってからの戦術は見事だった。どこで学んだんだい?」
ルミナは少し戸惑いながらも、静かに答えた。
「実は…サイラス様とノエルさんの戦いを見て、サイラス様がノエルさんの魔法陣を整えた時に、その技術を応用できるかもしれないと思ったんです。それから、ダリウスさんが霧を使って視界を奪った戦術を見て、自分なりにどう応用できるかを考えました。」
サイラスは驚きと感嘆の表情を浮かべた。
「なるほど。短時間でよくそれほどの応用力を発揮したね。君は観察力と応用力に優れている。それはこれからの成長に大きく役立つだろう。」
ルミナはサイラスの言葉に少し照れながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「戦いにおいて最も大切なのは、焦らず冷静に状況を見極めることだ。君の魔力は少ないかもしれないが、その分工夫や技術で補っていくことができる。今日の戦いでその片鱗を見せてくれたよ。」
サイラスはそう言って、ルミナの肩を軽く叩いた。ルミナは力強く頷き、再びお辞儀をした。
「これからも、もっと頑張ります。いつかサイラス様のような魔法使いになりたいです。」
サイラスは微笑んで彼女を見つめた。
「君ならきっとできる。これからも努力を続けなさい。私は君の成長を楽しみにしているよ。」
ルミナは心の中で決意を新たにし、サイラスに深く感謝した。そして、この試験で学んだことを糧に、さらなる成長を目指していく覚悟を固めた。
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