プロローグ 魔法学園入学試験編 2
魔力測定の入学試験が終わり。試験の合間に設けられた昼休憩。少し長めの休憩なので、受験生たちは学園の食堂へ行き食事をとる者、精神を集中させるために瞑想する者、庭で寝転がって体と頭を休める者など、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
ルミナは木陰に腰を下ろし、手元にある包みを広げた。中には、自分で作ったサンドウィッチがいくつか入っている。昨夜、泊まっている宿屋のキッチンを借りて作ったものだ。
「さて、いただきます…」
ルミナが小さな声でつぶやき、サンドウィッチを手に取ろうとしたその時、ふと横に誰かの気配を感じた。顔を上げると、銀髪の少女ノエルが無表情で立っていた。ノエルは無言でルミナの作ったサンドウィッチに視線を向けている。
「…」
ルミナは少し驚きながらも、気まずさを感じつつ声をかける。
「あ、これ? 自分で作ったサンドウィッチだよ。お昼休憩のために、昨夜のうちに準備しておいたの。」
ノエルはじっとサンドウィッチを見つめたまま、何も言わない。少し気まずい沈黙が流れる。ルミナはその視線に少し戸惑いながらも、気を利かせてサンドウィッチを差し出した。
「もしよかったら、一緒にどう?」
ノエルは一瞬だけ目を細めてルミナを見たが、次の瞬間にはその表情はまた無表情に戻り、無言でサンドウィッチを受け取った。
「…ありがとう。」
短く言葉を残して、ノエルはサンドウィッチにかぶりつく。ルミナは少し安心したように、自分もサンドウィッチを食べ始めた。
「さっきの試験、すごかったね。私、びっくりしちゃったよ。」
ルミナが話しかけるが、ノエルは無表情のまま黙々とサンドウィッチを食べ続ける。ルミナは少し気まずさを感じながらも、もう一度話しかけてみた。
「筆記試験でも隣だったし、また会うなんて奇遇だね。ノエルさん、どこから来たの?」
ノエルは一瞬だけ視線をルミナに向けたが、すぐにまたサンドウィッチに戻った。
「…遠いところ。」
ノエルは返事をした後、再びサンドウィッチに集中し始めた。しかし、急いで食べたせいか、突然彼女が咳き込み始めた。目が大きく見開かれ、喉にサンドウィッチを詰まらせたようだ。ノエルは慌てて飲み物を探そうとするが、手元には何もない。
「あ、ちょっと待って!」とルミナはすぐに反応し、自分の持っていた水筒を差し出した。
「これ、飲んで!」
ノエルは水筒を受け取り、一気に水を飲み干した。ようやく喉を通ったサンドウィッチが落ち着いたのか、ノエルは少し呼吸を整えた後、ルミナをちらりと見た。
「…ありがとう。」
その短い感謝の言葉は、さっきよりも少しだけ真心がこもっているように聞こえた。ノエルの白い肌に少し赤みが差している。照れているのだろうか。ルミナはにっこり笑って返事をした。
「どういたしまして。食べ物はゆっくり食べた方がいいよ。」
ノエルはぎこちない照れ笑いを浮かべる。水筒をルミナに返すと、再びサンドウィッチを食べ始めたが、今度は少し慎重に食べ進めている様子だった。
「私はルミナ・フォーサイトっていうの。どうぞよろしく。」
ノエルは軽く頷き、サンドウィッチを最後まで食べ終えると、ようやくルミナに向き直った。
「わたしはノエル。よろしく。あなた…自分で作ったんだね、これ。」
「うん。少しだけ料理が得意だからね。」
「…悪くない味だった。」
それだけ言うと、ノエルは再び視線をそらし、そっけない態度に戻った。ルミナはそんなノエルの様子に少し笑みを浮かべた。
「ありがとう。次の試験も頑張ろうね。」
ノエルはその言葉に対して無言のまま立ち上がり、軽く頷くと再び一人で歩き出した。ルミナは彼女の背中を見送りながら、小さな出会いのきっかけができたことにほっとした気持ちを抱いていた。
試験会場に戻ったルミナは、胸の中で高鳴る鼓動を感じながら、順番を待っていた。次の試験課題は「魔法の実演」。受験生たちは自分の魔法の技量を試験官の前で披露し、その評価を受けることになる。
受験生たちは一人ずつ前に出て、自分の得意とする魔法を試験官たちに見せる。この試験では、魔法の威力や精度、そして構成の正確さが評価基準となる。周りの受験生たちが次々と強力な魔法を見せるたびに、ルミナの不安は増していった。
「次、ルミナ・フォーサイト!」
試験官の冷静な声が響く。ルミナは深呼吸をして、緊張を抑えながら前に進み出た。心臓が高鳴るのを感じながら、集中する。周りには、試験官や受験生たちがいて、その視線がルミナに突き刺さるようだ。
ルミナは、これまでの修行で培った魔法の構成を頭の中で思い描く。杖を構え、まずは魔力増大の魔法構成を展開する。彼女は魔法の構成には長けており、緻密な魔法陣を素早く描き上げることができた。目の前に魔法構成陣が浮かび上がる。ルミナはそれに自分の魔力を注ぎ、魔法を発動させる。
炎の球の魔法を発動させ、目標物に命中させることに成功した。それなりの威力はあるが、この試験は大陸最高の魔法学園の入試試験だ。他の受験生たちの強力な魔法と比べると、どうしても見劣りしてしまう。
試験官たちの表情は変わらず、彼らの評価が厳しいことがルミナにはすぐに分かった。魔法の構成自体は完璧だが、やはり威力が足りないのだ。
「魔法の構成は優れているが、魔力が不足している。このままでは実践で使い物にならない。」
冷ややかな評価を受け、ルミナは肩を落としてその場を後にした。心の中で焦りと悔しさが交錯する。自分が他の受験生たちに比べて圧倒的に劣っていることを痛感せざるを得なかった。
次に呼ばれたのはノエルだった。彼女は無表情のまま、ルミナとすれ違いながら前に出る。試験官や受験生たちの視線がノエルに集まる。午前中の魔力測定試験の結果から、皆が彼女の実力に期待しているのだ。
ノエルは深呼吸をしながら、魔法の構成を始めた。しかし、彼女の魔法構成陣の展開は稚拙で、魔法陣は不完全なままだった。
「…もう少し、慎重に…」
ノエルは小さくつぶやきながら、魔力を解放した。その瞬間、強大な魔力が溢れ出し、場の空気が一瞬で張り詰めた。しかし、魔法陣が不完全であったため、魔力はうまく制御されず、辺りに強風が巻き起こる。結果、魔法自体は失敗し、強大な魔力を持ちながらも、まともに効果を発揮することができなかった。
試験官たちは困惑した表情を見せつつも、評価を下した。
「強大な魔力を持っているが、魔法の構成や制御が未熟だ。このままでは力を持て余すことになる。」
ノエルはその評価を聞いても無表情を崩さず、少し肩を落としながらその場を離れた。
次に呼ばれたのはダリウス・ブラックウッドだった。彼が前に出ると、受験生たちの間に緊張が走った。ダリウスは無表情で冷静に、試験官たちの前に立つ。
彼は魔法構成陣を眼前に展開すると、少しの迷いもなく魔力を解放した。その結果、非常に精密で強力な魔法が発動し、複数の強力な火球が具現化し目標に向かって進み破裂した。その威力は凄まじく、場の全員を圧倒した。試験官たちは満足そうに頷き、最高の評価を彼に与えた。
「完璧だ。魔法の構成、魔力の制御、全てが一流だ。」
受験生たちの間からも、ダリウスに対する尊敬と畏敬の声が上がった。ダリウスはその声を気に留めることなく、冷静にその場を離れた。
そして最後に呼ばれたのは、赤髪の少女、カーラ・ヴァレインだった。彼女は堂々とした足取りで前に進み出ると、自信満々に魔法陣を描き始めた。カーラの魔法構成陣は正確で、魔力の放出も安定しており、力強い魔法を発動させた。
「非常に優れた魔法構成と安定した魔力だ。申し分ない。」
試験官たちは彼女の実力に高い評価を与え、カーラは満足げな笑みを浮かべ、ルミナとノエルを交互に見て意味深な笑みを浮かべながらその場を後にした。
試験が終わり、ルミナは自分の席に戻りながら、他の受験生たちの実力を目の当たりにして、自分との差を痛感していた。焦りと不安が胸を締め付けるが、それでも彼女は諦めることなく、次の試験に向けて気持ちを奮い立たせようとした。
「まだ終わってない。これから…」
ルミナは自分にそう言い聞かせ、決意を新たにした。
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