落第少女のキッチン戦記
@saikayuto
プロローグ 魔法学園入学試験編 1
青空が広がる空の朝日を浴びながら、一人の少女がセリオス魔法学園への石畳の道を一歩一歩進んでいる。
彼女の名はルミナ・フォーサイト。15歳の彼女は、肩にかかる金色のウェーブがかった髪を揺らしながら、澄んだ青い瞳に不安と期待を映している。手には、魔法の師匠クロエから譲り受けたローブと小振りの杖を握っていた。健康的な白い肌は緊張のためか少し赤みを帯びていたが、その表情には強い決意が宿っている。
数日前、ルミナは故郷の街からこのセリオス学園の試験を受けるためにやってきた。道中には初めての船旅もあり、波に揺れる船内で体調を崩すこともあったが、彼女は諦めなかった。師匠クロエのような立派な魔法使いになるという目標のために、ここまでたどり着いたのだ。
セリオス学園はエルミナ大陸の西端に位置する、魔法使い学校の最高峰だ。ルミナは自分の魔力がそれほど高くないことを知っていたため、この試験に合格できるか、心の中には常に不安が渦巻いていた。それでも、ここまで来たのだから諦めるわけにはいかない。
「私、ちゃんとできるかな?」
ルミナは小さな声で自分に問いかけ、周りの様子を伺った。試験を受けるために集まっている他の生徒たちは、自信に満ちた様子で整った制服やローブを着こなしている。彼らと比べると、自分はずっと小さく見える気がした。魔力不足という現実が、再び彼女の心に重くのしかかる。
歩みを進めるたびに、ルミナはクロエ師匠のことを思い出した。クロエ師匠はルミナが9つの時から家庭教師として魔法を教えてくれた姉のような存在だ。厳しくも温かい教えが、彼女を何度も励ましてくれた。、ルミナにとっては最高の師匠だ。彼女の教えを胸に、ルミナは今日という日を迎えている。
目の前に広がるのは、学園の高い塔と威厳ある門。その向こうには、未知の世界が待っている。ルミナは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。そして、もう一度手をぎゅっと握りしめ、セリオス学園へと歩みを進めた。
セリオス学園の巨大な門をくぐり、ルミナはその荘厳さに思わず息を飲んだ。敷地内は広大で、中央にそびえる高い塔が、この学園の歴史と威厳を物語っている。石造りの建物が立ち並び、古くから受け継がれてきた伝統が感じられる。初めて見る光景に、ルミナの胸は高鳴った。
「すごい…!ここがセリオス学園…。」
しかし、その感動と同時に、試験独特の緊張感が彼女を包み込んでいく。周りを見渡すと、受験生たちが続々と筆記試験会場へと向かっているのが見えた。ルミナもそれに続き、広間から試験会場へと移動する。
試験会場に足を踏み入れると、そこには既に多くの受験生たちが席についていた。広い部屋には静かな緊張感が漂い、ルミナは自分の席を見つけてそっと腰を下ろした。その瞬間、隣の席に座っている少女の姿が目に入った。
その少女は、銀色の髪を持ち、その髪が光を反射してまるで月光のように輝いている。小柄で華奢な体つきでありながら、その存在感はひときわ際立っていた。彼女の肌は雪のように白く、澄んだ瞳がじっと試験用紙を見つめている。ルミナは思わず彼女を見つめた。
「あの子、誰だろう?」
銀髪の少女は、少し緊張した様子で試験用紙を手に取っていたが、その表情にはどこか不安が滲んでいるように見えた。ルミナは彼女が気になったが、自分の試験に集中しなければならないことを思い出し、視線を試験用紙に戻した。
試験官の合図とともに、筆記試験が始まった。ルミナは問題を目にすると、スラスラと解答を書き進めていった。学科試験の内容は彼女にとって難しくはなく、クロエ師匠から教わった知識をフルに活用して、順調に進めることができた。
やがて試験が終了し、ルミナは深呼吸をして、隣の席に視線を向けた。試験が終わってホッとしたのも束の間、隣の銀髪の少女が肩を落とし、試験用紙を見つめたまま深くため息をついているのが目に入った。
「あの子、筆記試験が苦手だったのかな。」
ルミナは心の中で呟いた。自分が順調に試験を終えられたことに安堵しながらも、彼女の落ち込んだ様子が気になった。しかし、話しかける勇気もなく、ルミナはそのまま静かに席を立ち、次の試験に向けて気持ちを切り替えることにした。
次の試験は魔力測定試験だ。場所を学園の庭に移しての試験で、広々とした空間に整然と並べられた机と魔力測定用の水晶球がいくつか用意されている。受験生たちはそれぞれ自分の順番を待ち、緊張した表情で試験の行方を見守っていた。
「それでは、呼ばれた者から机の上の水晶球に触れ、魔力を流すように!」
試験官が響く声で指示を出し、受験生たちに聞こえるように名前を呼び始める。名前を呼ばれた受験生たちは前に出て、水晶球に手をかざし、魔力を流し込む。すると、水晶球が淡く輝きを放ち、その魔力量に応じて光の強さが変わる仕組みになっているらしい。
ルミナは、自分の順番が来るのを待ちながら、周りの受験生たちの様子を気にしていた。先ほど筆記試験で隣に座っていた銀髪の少女が再び視界に入り、彼女の冷静な表情から、どんな結果を出すのか気になって仕方がなかった。
「ノエル・エヴァレット!」
試験官が名前を呼ぶと、銀髪の少女ノエルが前に出た。彼女は迷いのない足取りで、魔力測定装置の前に立つ。周囲の視線が彼女に集中し、ルミナも目が離せなくなっていた。
ノエルは静かに目を閉じ、集中力を高める。そして、彼女の手から魔力が解放されると、測定の水晶球が激しく光り始めた。装置が微かに振動し、他の受験生とは明らかに異なる強い輝きを放つ。水晶球が割れそうなほどの強力な魔力が、あたり一帯に白い光を放ち、周囲を一瞬で照らし出した。
「これは…過去最高級の魔力だ!」
試験官も驚きの表情を隠せない。受験生たちも息を呑み、その光景を見守っていた。ルミナはその圧倒的な力に圧倒され、口を開けたままノエルを見つめた。彼女の魔力は、他の受験生たちとは明らかに違う次元にあることが一目で分かった。
ノエルが測定装置から離れると、まだ周囲にはざわめきの余韻が残っていた。
「何だあれは?」
「化け物じゃないのか?」
「見たことがないほどの魔力量だ…」
周囲の受験生たちがささやき合う声が聞こえるが、ノエルは気にする様子もなく静かにその場を後にした。その間にも試験は続いていた。
「ダリウス・ブラックウッド!」
試験官の呼びかけに応じ、黒髪の少年が前に進み出る。彼が歩みを進めるたびに、受験生たちの間に緊張が走り、軽いざわめきが起こった。ダリウスは、無造作にセットされた黒髪が額にかかり、その暗い緑色の瞳が冷静に周囲を見渡している。彼の姿は、他の受験生たちとは一線を画しており、その堂々とした立ち振る舞いからは圧倒的な自信が感じられる。彼は無表情で冷静に装置の前に立ち、その場の注目を一身に集めていた。
彼が魔力を解放すると、装置は再び激しく光り始めた。ノエルほどの圧倒的な輝きではないが、それでもトップクラスの魔力量を示す強い光が広がる。試験官たちはその記録に頷き、ダリウスの実力を認めるように見えた。
「さすがだな、ダリウス…」
周囲の受験生たちが小声で囁き合うが、ダリウスはそれを全く気にすることなく、静かにその場を離れた。
「次!ルミナ・フォーサイト!」
ルミナは名前を呼ばれると、短く返事をして前に進み出た。魔力測定装置の前に立つと、心臓が緊張で激しく打ち始める。深呼吸をして、心を落ち着かせようとしたが、手が震えるのを止められなかった。
「大丈夫…私はやれる…」
そう自分に言い聞かせて、ルミナは魔力を解放した。しかし、水晶球はわずかに光を放っただけで、大きな反応は示さなかった。他の受験生たちの強力な魔力とは比べ物にならない、控えめな光だった。
広間に一瞬の静寂が訪れ、ルミナは自分の結果を痛感した。彼女は静かにその場を後にし、自分の魔力がどれほど低いのかを実感しながら席に戻った。不安と焦りが心の中で渦巻き、ノエルやダリウスのような強大な魔力を持つ生徒たちがいる中で、自分はどうやって生き残ればいいのか、その答えが見つからないまま…。
「次!カーラ・ヴァレイン!」
次に呼ばれたのは、赤髪のショートカットの少女だった。カーラはくすんだ赤髪が柔らかく顔にかかり、その鋭いブラウンの瞳が周囲を冷たく見渡している。彼女の整った顔立ちは、きつい目つきが特徴的で、どこか冷淡さを感じさせるが、その美しさには誰もが目を奪われる。カーラは落ち着いた様子で前に進み出たが、ルミナとすれ違いざまに、軽く嘲笑うような表情を浮かべた。
彼女が魔力測定装置の前に立ち、魔力を放つと、水晶球は穏やかに輝き、平均的な魔力量を示した。特筆すべき強さではなかったが、安定した実力を持っていることが伺える結果だった。
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