第110話 あの夏⋯.1
*
次の日の朝。
いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ川沿いの道を歩いて、いつもと同じ公園で、いつもと同じゴールに向かって、私はシュートを打っていた。
体のキレはよかった。
だけどボールはリングに大きく弾かれた。
再び軽く体をほぐしてからシュートをしたけど、またリングに嫌われる。
理由がわからなかった。
頭だけが、まだ眠っているみたいだった。
学校へ行くと、鳴海君は風邪で休んでいると滝本君が教えてくれた。
……私のせいかもしれない。
と考えると、ついネガティブなことで頭の中がいっぱいになってしまう。
部活の練習でもシュートはいまいちだった。
体育館の天井を軽く仰いで大きく息を吐くと、怪我から完全復活した結衣が、ぽん、と肩を叩いて走って行った。
次の日の朝も同じだった。
いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じようにして公園へ向かいシュート練習をした。
何度もボールがリングに弾かれて、思わず天を仰いだ。
……どうしよう。
不安がつきまとう。
そこには、突き抜けるように青かった空はもうなかった。
その日の部活の練習でも一緒だ。
これだけの不調は中学生以来だった。そう、スランプに陥った、あの夏以来。
ふいに周囲から当たり前のように聞こえてくるバスケットボールの音に、恐怖を感じた。
結局あの日スランプになった私は、春の兆しが見えるまで全く改善する気配がなくて引退を覚悟していた。
次の日の朝も、いつもと同じように公園へ向かった。
でも、同じだった。
何度も何度もボールはリングに弾かれる。
——さすがにまずいと思った。
大事な試合まで、あと二日しかない。
無理やり呼吸を整えてシュートを放つ。
でも、同じだった。
——だめだ。
どうしよう。
学校に行くと、鳴海君は今日も休みだった。
部活では、いつも以上に張り詰めた空気が漂っている。沙織んの掛け声が響くと、全体でコーチの前に集まる。的確な指示とともに、試合で守るべき約束事が再確認される。
「いい? じゃあ各自、シュート練習!」
その一言で、皆んなが一斉に散り、コートのあちこちからボールがリングを叩く音が鳴り響く。
私も持ち場へ向かいボールを放ち始めた。黙々と立て続けにゴールを狙った。
けれど、結果は今日も同じだった。
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