第109話 青白い光のむこう
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一人で歩く帰り道。街灯の明かりが影をぼんやりと伸ばしていて、少しだけ見えていた明日が、どんどん遠のいていく気がした。
ふと足を止めて袋の中を覗く。一之瀬から受け取った手提げ袋だ。中には、貸していたカーディガンと、その上に赤いお菓子の箱が見える。
ひょっとしてこれも……何か意味があるのだろうか。
そう思うと、足はひとりでに進んでいた。
……今日は『ポッキーの日』。
それだけの理由で? それとも——
また俺は何かを忘れているのか……?
考えると、胸の奥が締めつけられるような気がして、何かがじんわり溶けていくような温かさが押し寄せてきた。
あぁーー、と苛立ち混じりの声が漏れて、思わず頭をぐしゃぐしゃとかきむしった。
家に着くと、普段どおりの母さんと一言二言、交わしてから俺は部屋へと入る。そしてそのまま、暗がりの中で座り込んだ。
*
小さく「ただいま」と言った。
息を切らして家まで駆け込んだせいで、胸がまだ落ち着かない。
「あれ、桃子?」
リビングからお姉ちゃんの声がしたけど、立ち寄る気力すら
そして電気をつけるのも
頭の中はぐちゃぐちゃで、実際にはあれこれ考えているけど何も考えられなかった。
枕に顔を
「どうしたー? 平気ー?」
と訊かれ、私は顔を伏せたまま、適当にドアの向こうに答えた。
「大丈夫。平気だからー」
足音が遠のいていくのを確認してから、スマホを手にすると、暗い部屋の中で青白い光がぼんやりとした。LINEをひらいて、二、三文字タップして手が止まる。
どうしたらいいのか、自分でもわからなかった。
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座り込んだままスマホを手にすると、画面の青白い光がぼんやりとして、暗がりの部屋の輪郭を浮かび上がらせる。
ダイニングキッチンからは、何かを片付けるドタバタとした音が響いている。明日、母さんはアメリカへ発つ。
どうしたらいいのか、自分でもわからなかった。
乾燥したスネをいつまでも掻きむしったところで、痒みは増すばかりだ。
どこにも逃げ場がない。
出口のない迷路をさまよっている。
俺は来るはずのないLINEを、ただぼんやりと眺めていた。
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