第96話 同じバスケ部?.1

 ——いかん、いかん。


 気づけば私の足は速くなっていた。

 祐天寺の駅前で、女バスと男バスの友達が何人か集まっていて、結局あれこれ話し込んでしまった。


 話題は『究極の二択』で、——奢りだけど貯金がない恋人と、毎回割り勘だけど貯金がある恋人。どっちがいい?

 私は、うん、うん、とうなずくことしかできなかったけど、皆んなが思いのほか彼氏に奢ってほしいと思っていることが透けて見えて、ちょっとびっくりした。

 途中、キラリ君が顔を出して、皆んなに面白がってイジられ、糸田君が来たら、二択の回答がくそ真面目すぎて、おかしな空気になって解散となった。


「え、もうこんな時間⁈」


 時計を見ると、予想以上に時間が経っていた。今日は、鳴海君に借りたカーディガンを返しに行ってから、家でゆっくりするつもりだったのに。

 けれども、そう思いつつ、喉の渇きに気づく。電車に乗る前に、コンビニで飲み物を買っていこう。



 ……何だ、コイツも?


 頭の中に疑問符が散らばる。

 さっきまで猫に感じていた違和感が、そのままこの制服を着た男にすり替わったようだ。いきなり声をかけてきてから、コイツはずっと親しげに話しかけてくる。

 言葉が耳を通り過ぎるたび、記憶の引き出しを片っ端から開けてみるけれど、それらしい手がかりは見つからない。


 ……たしか、コイツは。以前、一之瀬と一緒にいたときにも話しかけてきたよな?


 適当に相づちを打つものの、会話はまるで一方通行で、言っていることがさっぱりわからなかった。


 俺がコイツと同じ中学に?

 ありえない。鎌倉にいたはずの自分と、この男が同じ中学だったなんて。それともコイツも鎌倉の中学校に?


 ——いや、コイツは一之瀬とも同じ中学だ。

 また、ただの人違いか……?


 考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがっていき、じゃあ、またな、と適当にその場を立ち去ろうとした、そのときだ。


「おっ待たせっー」


 突然、明るい女子の声が飛び込んできた。

 振り向くと、男と同じ制服を着ていた。女子は俺の顔を見るなり、息を弾ませながら駆け寄ってくる。


「えっー! 鳴海君じゃーん! ほんとに戻ってきてたんだねー!」


 俺はコイツも知らない。


 言葉の意味を掴みかける前に、男が口を挟んできた。


「でもさ、純のやつ、なんかかしこまっちゃって変なんだよ」

「そうなの?」


 女子が首をかしげると、男は軽く笑って、肩をすくめている。


「どーしたんだよ純っ。まさか、俺のこと忘れちまったのか? 同じバスケ部だったってのに」


 ——俺が? バスケ部だって?

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