第81話 対する緑色.2

 そして自然と話題は、ウィンターカップのことへと移っていき、


「……そういえば、杏が教えてくれたんだけど」


 と、私は弁当の箸を止めながら、水族館に行った日に届いたメールの、二つあった内一つを伝えた。

 ひとつは、星ヶ丘学園のスタメンについて。どうやら三年生を押しのけて、一人の二年生が起用されるらしい。その選手はディフェンスに定評があり、おそらく結衣のマークにつく。

 名前は、野緑のみどりさん——。その名前を目にした瞬間、中学最後の試合が頭に浮かんだ。あの試合、私は野緑さんにマンマークされてボコボコにされた。得点どころか、まともにボールに触れることすらできずベンチへと退いた。今でもあのときの、悔しさで熱くなった顔を最後まで隠しきれなかった思いは忘れられないでいる。

 結衣が私の顔をじっと見つめてくる。


「それって、桃が中学で苦戦した相手ってことだよね?」

「……うん、そう」


 そう答えながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「面白そうじゃん」


 結衣は箸を置いて、口元に自信の笑みを浮かべる。


「杏さんにお礼言っといて。望むところだって」



「ったく、うちの母親ときたら——」


 水筒の蓋を開けたら中身が空だった。

 昨日、浮かれていたからだと、私はぶつすか文句を垂れながら昼食の最中に自動販売機へと向かった。

 だけども、先に買っている二人がいた。

 それは、糸田君と男バスの女子マネージャーだ。



「あれ、鳴海君。今帰り?」


 校門を出たところで思わず声をかけた。


「ああ、そうだけど」

「そうなんだっ。今日、部活休みだから一緒にパン屋さんまで帰ろ」


 すると鳴海君は、ああ、と口ずさんで、ちょっとだけ視線を逸らしながら答えた。


「俺も今日はバイト、休み」



 二人で電車に乗り込んで、ふと気がつくと、そこに糸田君が座っていた。ちょうど座席の前に立つ形になった。


 ……気まずっ。

 どうする? 移動する?


 と、思いもしたけど、糸田君と視線が合って諦めた。

 お互い気まずい雰囲気のまま、電車が発車すると、揺れに合わせて足元がふらついた鳴海君は、「イテ」と吊り革に頭をぶつけ、同じく重心を崩してふらついた私はその拍子に、「キャ」と思わず声を上げて、肩が鳴海の体に触れてしまい、慌てて体を引いた。

 触れた瞬間に目が合ったけれど、どちらも何も言えず、すぐに顔を逸らす。

 そして、三人の沈黙が流れた。


「……」


 そんな私たちのやり取りを見ていた糸田君が、「……おまえたちな」と少し呆れたように笑いながら言った。


「のろけ夫婦かよ」


 車内に響いたその言葉に耳まで赤くなるのを感じた。鳴海君も同じだと思う。

 すると『次は中目黒——』というアナウンスが聞こえ、私たちはそそくさと電車を降りた。

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