第77話 カラッとした変態.2
「前に話しかけてきた一年だろ? キラキラしたやつ」
ああ、そうだったかな、とぼんやりと頭に浮かべた。
「まあ、筋は良いんじゃね? 顔に似合わず積極的だからな。さっきから外から打ってるし。お、また打ったぞ?」
見ると、十二番が再び放ったシュートは、放物線を描き、ボールはリングの縁で弾かれてわずかに跳ね返る。と同時に、ギャラリーから漏れたため息が体育館に漂う。その中には、より際立った鈴木の熱のこもった応援の声も含む。
「ボールキャッチからのリズムが悪いな……タフショットが多すぎる」ふいに呟くと、滝本が振り返ってきた。
「何何? 純、やけにバスケ詳しいなっ」
お前もな、と内心で軽く突っ込みを入れつつ「俺は野球もサッカーも知ってる」と言い返すが、何やら俺は、滝本のニヤり度をさらに加速させてしまったようだった。
その様子に思った。
「滝本は、なんだかカラッとした良い変態だな」
「なんだそれ、褒めてんのか、けなしてんのかわかんねーからっ」
声を上げて笑う滝本は、ますます嬉しそうにも見える。
と思いきや、すぐに気持ちを切り替えるように声をかけてくる。
「お、あっちのコートっ」
……こいつは何なんだ。
人に執着しない。
これがあるから、病的な情報収集も可能なのかもしれないな。
「一之瀬、出てきたぞ!」
……ん?
声に引かれるように視線を女子コートに移してから、すぐに違和感を覚えた。
……なんでスタメンじゃないんだ?
一之瀬のプレーには無駄がなく、風格さえ感じられた。普段の様子からは想像できないが。
そう思っていると、身を乗り出しながら張り上げる滝本の声がする。
「おっ! 3ポイント入るか? あれ、線から一メートルは離れてるんじゃね? ディープスリーとか、あいつスゲーなっ」
その瞬間、ボールが放たれた。けれど、リングに弾かれる音が響く。滝本は「あーあ」と苦笑いして頭を振った。
コートで何度かボールが行き交ったあとで、一之瀬が再び3ポイントシュートを狙う。でも、結果は同じだ。
……ダメだ、リズムが悪いし打点が低い。
自分でも驚いた。何でこんなにモヤモヤする?
でも、思いとは反して、次々と心語りは止まらない。
3ポイントシュートは決定率が命綱だ。二本連続で外せば次は重圧がかかる。三本外せば、もう打つ勇気さえ失い、そしてベンチに引っ込む。シューターはそれくらい繊細なものだ。
心の中がざわついている。理由はわからない。でも、この感情を無視することはできなかった。
次のプレーで、一之瀬は2ポイントシュートを決めた。
だめだ。自信をなくしてる。今のは3ポイントを打てた場面だ。ひょっとしてメンタルに不安があるのか?
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