2章

第76話 カラッとした変態.1

「かあーっ、やっぱ気合い入ってんな~、バスケ部。大会の予選まであと一週間だもんな~」


 いつもの軽い調子で張り上げた滝本の声が、体育館の張り詰めた空気に相殺される。

 二階のギャラリーから見下ろすコートでは、男女それぞれが大学生相手に練習試合をしていた。俺たちはその中央付近に陣取り、どちらの試合も一望できる位置で立ち見をしている。男子側には山田と鈴木の姿も見える。


「祐天寺って、強いのか?」


 訊くと、滝本が何か含みを持たせたように笑いながら、「純。変わったよな。バイト始めてから」と言う。


「はあ? そうか?」

「優しくなったよ、前よりな」


 そう言って滝本はニヤつく。


「まあ、俺は最初の頃の完全武装した純も好きだけどなっ」


 何だその顔、と軽く睨むが、否定し切れないところが悔しく思う。

 とはいえ、ボールをつく音は、未だに不快ではあるのだけど。


「……女子は強いぞ。一次予選は通過したから、次は決勝リーグだな」


 試合を眺めながら滝本は続けた。


「ウィンターカップ予選の参加資格も獲得してる中で、決勝リーグに進めるのは八校中、四校。ちなみに祐天寺は、夏の都予選ベスト4」

「男子は?」

「男バスはない。冬の予選参加条件、インターハイ予選ベスト8までだから。まあ、来年の夏だな」


 試合の流れに目をやりながら滝本は肩をすくめる。


「まあ、夏は今キャプテンやってる糸田が怪我してたのもあったけどな。あいつ、良い動きしてんだろ?」


 言われた背番号四番を目で追うと、軽やかなフットワークと冷静な判断力を持っていて、たしかに、と納得した。


「あいつ、千葉から通ってんだぜ? よく一時間かけて来るよな」と滝本が呆れ半分に笑う。

「くそ真面目な性格してそうだから、電車ん中で筋トレしてそうだけどな」

「滝本は何で祐天寺を選んだんだ?」


 この話題はどちらかというと、どうでもよかったが、話の流れで訊くと、珍しいな、と言ってから「やっぱ、変わったわ」と、滝本は意外そうな顔を見せて、またニヤりと笑った。


「俺は、ばーちゃんが近いからだな。学校の近くに泊まれる家あるとか最高じゃん?」


 まあ、俺も似たようなものだった。鎌倉にある父さんの実家という選択肢もあったけど、謎に母さんが猛反対したため、都内に移り住んだ。


「純は?」


 と訊かれ、そのまま思ったことを適当に答えた。

 すると、歓声が上がる。祐天寺の3ポイントシュートが決まったようだ。背番号は十二番。


「あいつは?」


 たく、また男の話かよ、と文句を垂れながらも滝本は答えてくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る