第62話 一難去ってまた一難.2
すると、鈴木さんが急に前に出てきて、心配そうな声を上げる。
「鳴海君、無理しないで!」
表情からは、普段見せないほどの真剣さが伝わってきた。その目線には、言葉以上に鳴海君を想う気持ちがにじんでいる。
鳴海君の顔をじっと見つめ、鈴木さんは少し考えるように唇を噛みしめ、静かに口を開く。
「少し休んだほうがいいかも。無理して動かないで。あっちに腰を下ろせる場所があるから」
そう言うと、軽く手を差し伸べてから、鳴海君の反応を静かに待つようにその場に立ち止まる。
その眼差しは鳴海君に釘付けで、他の何も見ていないかのように、視線を外さなかった。
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「え、なに? 行かなかったの?」
結衣が驚いたように問いかけてきたのは、体育館の片隅だった。
今日の体育は隣のクラスとの合同授業で、クラスメイトたちがそれぞれバドミントンの試合を楽しんでいる。私たちは、広い体育館の床に並んで座り、試合を眺めていた。
コートの真ん中では、鳴海君と滝本君が対戦している。白熱したラリーが続くたびに、周りの女子たちが息を呑んで見守っている。
鳴海君の元気そうな姿に、私の胸の中に、ほっとしたような安堵感が広がる。
……そう、結局、昨日は水族館に行けなかった。
鳴海君の体調を気遣って、予定を取りやめたのだ。
何げなく視界の端に鈴木さんの姿が映り込む。きっと、鳴海君のいつも通りの様子に、ほっと胸をなでおろしている──そんな気がした。
「二人とも、ガチだね」
くすりと笑う結衣に、ひじで軽く突かれた。
「……そうだね」
と、私は結衣に合わせて笑うけど、何かモヤモヤしたものは、そのままだ。
「あの二人、何か因縁でもあるのかな?」
結衣の言葉に、ふと考えが浮かぶ。
たしかに、いつもの二人ならもっと気楽に、適当に楽しみそうだ——
そんなことを思っていると、滝本君がシャトルを拾い上げながら、わざとらしく大きな声で文句を言い始めた。
「おい、純っ! そんなに本気でくるなっての!」
滝本君は汗だくで、肩を上下させながら鳴海君を見ている。対した鳴海君も似たような感じだった。息を切らしながら汗を
「……知らん。体が勝手に動く。それより滝本、お前こそ往生際が悪いぞ」
二人のやり取りに、周囲からくすくすと笑い声が漏れ、場が和やかな空気に包まれる。その雰囲気に少しほっとしていると、私の視線は再び鈴木さんの方へと向かう。
何かに勘づいたのか、結衣がもう一度話しかけてきた。
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