第52話 秋の空.2
そんな風に思ってしまうのは、鳴海君のせいだった。
何度もこの場所で、同じようにシュートをして、そして失敗をしていた。それは決して一人だけではなく、過去には鳴海君が隣にいて、並んで練習していたことが、自然と思い出される。
まずは、キャッチ。しっかりとボールを手におさめる。そして、そのままシュートを放つ。ボールを離す瞬間にループ高さの力加減を調整する。適切なループの高さが大事。
そう何度も基本的なことを口にしながら、隣で微笑ましくいてくれるだけで安心だった。何も言わなくても、失敗したときの表情を隣で見られると、少し悔しくて、それが次のシュートへのやる気に変わったりもしていた。
世界的な有名選手、カリー、の存在を知ったのもこの時だ。鳴海君は、カリーの真骨頂、3ポイントラインより一メートル以上離れたところで打つ『ディープスリー』をよく練習していた。
そのおかげで、私もディープスリーを決めれるようになり、一気にレギュラーに定着できたのだ。それは、中学時代に限ったことだけれども……。
今は、その姿がないこの公園で、同じことをしているのに物足りない。
——秋の空みたいに生きられたら、鳴海君に近づけるかな。
今日は、鳴海君とは顔を合わせていない。
昼休みに、教室で弁当を食べているときに、向かい合っている結衣に、ふいに訊かれる。
「桃って、鳴海君の連絡先知ってるの?」
ハンマーで頭をかち割られたような衝撃だ。
……う、うかつだった。
水族館。浮かれすぎて、日時を決めなければならないことを、すっかり忘れていた。
連絡先を知らない私は、直談判して日時を決定しなければならない……。
厳密には、LINEで繋がってはいるけれど、それは過去鳴海君で、おそらく今鳴海君には、メッセージは届かない。間違いなく。
昼食を終え、教室を早々と後にし、鳴海君の元にやっては来たけど、学校ではやっぱり無理だ。今は珍しく、一人でくつろいではいるけど。
渡り廊下の出入口で外を見つめている。遠目からからでも圧倒的な存在感。
この距離が限界だ。さりげなく近づいて、また突然訊いてしまい、もし他の誰かに聞かれたりしたら……という気持ちと、この手にしているペットボトルをわざと転がして、何食わぬ顔で話しかけてみる? みたいな気持ちが、秋空のように心が揺れ動く。
最悪の結果。一緒に水族館に行くことすら消滅してしまう可能性だって十分にありえる。それに……また鈴木さんに変な因縁をつけられるのも恐い。
そんなことを考えてしまっているから、また私は妙なことを引き寄せてしまう。
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