第51話 秋の空.1


 自分の部屋に戻ると、ばーちゃんの言葉がどうも気になる。


 ……俺が、嬉しそう?


 壁にかけた戦隊ヒーローのお面を眺めながら、思い返す。言われてみれば、たしかに、いつもと違う気分かもしれないが、理由がはっきりしない。

 鞄を置いてから椅子に座り、一息つくと、自然と頭に浮かんでくるのはアクアリウムのことだ。そこでの出来事と、一之瀬とのやりとりが、まるで水面に映る影のように揺らめく。

 一緒に水族館に行くことを約束したことが、未だに信じられない。

 ちょうど、水族館には行きたいとは思ってはいたけど……。


 ふとした勢いで口にしてしまった?


 そう考えると同時に、店内の、まるで水の中のにいるような静けさや、魚たちが心地よさそうに泳いでいた空間が思い浮かんだ。


 ……自分が好きなアクアリウムに興味を持ってくれたことが嬉しかった?


 それと、以前、一之瀬を泣かせてしまったときの後ろめたさも、どこかに引っかかっている。少し気まずいような気持ちもある。

 でも、ふとした時に、隣にいる一之瀬を思い出すと、不思議と落ち着く感覚を覚える。どういうわけか、一緒にいると心が穏やかになる瞬間があるのは否定できなかった。

 まあ、とりあえず落ち着こう。

 再び、お面に視線を移して思った。


 ——まあ、どうやら、また毒霧を吹きかけてくるわけではなさそうだし、安全だろ。



 目黒川沿いを眺めながら軽快に足を進めた。秋の風は涼しさを同時に運んでくる。川沿いの並木は、葉の先が少しだけ色づき始めたところで、まだ緑が鮮やかに残っている。川面には、光が揺れて、その隙間から少しずつ朝陽が差し込んでいる。

 いつも通りだった。

 家を出てから公園までの何も変わらない道のりが、妙に落ち着かせた。

 少し川沿いの道をそれて入っていくと公園が見えてくる。

 風が吹くたびに葉がひらひらと揺れ、その音が、いやがおうでも私の足取りを、軽やかにしているのだろうと感じた。


 公園に着き、バスケットボールを取り出すと、いつものシュート練習が始まる。手に触れる感触と、地面にボールが弾かれる音が心地よいリズムを刻む。シュートフォームを整えて、少しだけ呼吸を整える。

 しっかりと目標に狙いを定めて、リングに向かってボールを放つ。

 けれど、放たれたボールはリングの端に当たって、弾かれてしまう。


「ああ、やっぱりだ……」

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