第47話 キラリとさらり.1

「あの人……。鳴海純ですよね? さっき校門にいた人」


 キラリ君がぽつりとつぶやく。声には尊敬の念が込められていて、その瞳はいつも以上に輝いているように見えた。


「あ、すいません、いきなり。一之瀬先輩、青幸中の出身だって聞いて」


 そういうことか。何となく訊きたいことは把握できたけど、どんな風に答えていいのかいまいちわからなかった。とりあえず、

「そうだと思うよ」

 と、返した。


「やっぱ、そうですよね? 俺、人違いだって言われちゃって。ひどくないですか?」

「え、そうなの?」


 何がどうなれば、そんな展開になるのだろう……


「しかも、バスケもやったことないって、めちゃくちゃです。ひどすぎですよ~。おれ、鳴海純に憧れて、バスケ始めたようなもんなのに……」


 キラリ君は苦笑いしているけど、胸中穏やかでない私は、やっぱり記憶を失って——と落ち込む。しかも、大好きだったバスケをやっていたことさえ忘れてしまったなんて。

 鳴海君の気持ちを考えると涙が出そうだった。


「あの正確さ、どんな時でも冷静に決めるのが本当に憧れで」


 鳴海君の3ポイントシュートは、本当に正確無比だった。

 輝きを増すキラリ君の言葉を聞きながら、私は無意識に遠い記憶の中に引き戻されていた。鳴海君と初めてバスケを一緒にした、あの日のことを。

 それは私が、日課の自主練習をしているときだった。朝早く周りがまだ静まり返った中、公園のバスケットゴールの前で一人でシュート練習をしていた。

 その日は少し肌寒く、手の感覚が鈍るような朝だったけれど、夢中でボールをリングに向かって放り続けていた。すると、おはよ、とふいに背後から声がして振り向くと、薄手のジャージ姿で、柔らかい笑顔を浮かべた鳴海君が現れたのだ。

 私は驚きながらも、彼がここにいることが信じられなくて、何か言葉を探したけれど、ただぽかんと立ち尽くしてしまっていた。


 鳴海君は、少し戸惑ったような表情を浮かべ、そのあとに照れ臭そうに微笑みながら、

「ここにバスケットゴールがあるって聞いたんだけど……」

 と、そう口にし、視線を少しだけ横にそらした。


 その不器用な仕草が、妙に心に残っている。あの瞬間、彼の表情が私の胸に深く刻まれたように感じた。そして、正確無比なシュートに驚愕した私は、思わずバスケ部に入ることを勧めてしまったのだ。


「……一之瀬先輩?」

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