第46話 鈴木.3

 自分の話をし始める鈴木の声を聞き流しながら、俺は自分のことについて考え始める。やることが、本当に何もないことについて。

 確かに、俺は家に帰ると、ただ勉強して、そのあとは、見るともなしに動画を眺めて過ごすだけだ。面白いわけでもないのに、時間だけが過ぎていく。

 それに比べて、ばーちゃんはいつも忙しい。趣味が多く、友達もたくさんいる。旅行に出かけたり、趣味の日本舞踊の稽古に行ったりと、ほとんど家にはいない。だから、家でひたすら時間を持て余しているのは、俺の方だ。そんな自分が、少し情けなく思う。

 やがて、鈴木の話が途切れ、二人の間に静けさが広がった。鈴木も口をつぐみ、どこか気まずそうに黙り込んでいる。

 俺は、少しほっとしつつも、何か話しかけるべきだろうかと悩み始めたが、結局、言葉は出てこなかった。ただ、黙々と歩き続ける。

 鈴木もその沈黙に次第に慣れてきたようだった。



「一之瀬先輩、大丈夫ですか?」


 キラリ君が、心配そうに私を見つめている。

 彼の瞳はいつもと同じく無垢で、真っ直ぐだ。差し伸べられた手に、触れるべきか、触れぬべきか、めちゃくちゃ悩んだ結果。せっかくの親切心を踏みにじるのも失礼だ、そう思って私は、手を借りて立ち上がり、少し困惑しながらも微笑んで、お礼を言った。

 その後、自然な流れでキラリ君と一緒に校門を出ることになった。

 え、何? この展開?

 私はいまいち状況に抵抗を感じた。

 秋の空は、ひんやりとしていて、夏の名残を感じさせる暖かさと、冬の訪れを予感させる冷たさえ混じり合ってはいたけど、いつもと変わらぬ平穏な風景だ。でも、今の私はいつもと違った気持ちでその景色を見つめている。

 これ、乙女ゲームじゃないだろうな……?

 何て妄想していると、商店街には数軒の店が軒を連ね、窓際には灯りが灯り始めている。犬に吠えられ、ビクビク怯えてしまうけど、キラリ君に、大丈夫ですよ、と促され私は後をついていく。

 するとキラリ君は、何やら私に訊きたいことがあるのだと言う。ひとまず、目の前にあった、ちょこっと休憩できるようなベンチに座ることにした。

 先輩らしくしなきゃ、という謎のプレッシャーが私に迫る。

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