第41話 波乱の予感.2

 すると結衣は、そのことか、と前もって用意していたかのように答える。


「大丈夫、大丈夫。滝本君とはそういう関係じゃないから」

 私は結衣の目を、じいーっと見つめる。

「狙いは何?」

 訊くと、結衣は少し考え込むようにしてから、隣で練習をしている男子バスケ部の方をチラリと見た。

「もー、何にもないって。言ったでしょ? ナリだって」

 また、はぐらかされた。そして結衣がチラ見した先は、男子バスのキャプテン。その隣には、お祭りで一緒だった、女の子もいる。


「なるほど」


 恋愛って、他人から見たら分からないことがたくさんあるんだな……

 なんて呟いてから妙に納得していると、女バスのキャプテン沙織さおりんもこっちにやってきた。


「あの子、一年のマネージャーでしょ? 最近入った」

「ああ、そうなの?」

糸田いとだも大変だよねっ。キャプテンで、それどころじゃないのに」


 まあ、たしかに。ぱっと見て、糸田君が言い寄られてる感は拭えない。


「男バスも代替りして、気合い入ってるもんね」


 気がついたら結衣はもう、隣にいなかった。

 そう思っていたら、急に視線を感じた。

 ……ん? 何?

 私? 私を見ている?

 沙りんも何かただならぬ気配に気付いた様子で、周りを見回す。


「あれ、鈴木さんじゃん。三組の。こっち見てるけど…なんだろう」

 三組といえば、鳴海君と同じクラスだ。

「あの子、可愛いよねー。小さくてお人形さんみたいで。何か用事でもあるのかな」

 そう言う、沙織んに、さ練習練習、と声をかけられ、私は一緒にコートに向かった。



 練習も熱を帯びてきて、皆んなの声にも力が入り出した頃、沙織んのシュートしたボールが、大きくリングに弾かれた。


「やばっ。ごめんっ」

「あ、いいよ、いいよっ。私いく」


一番近くにいた私が、転がっていくボールを追いかけた。すると、扉のところで立っていた鈴木さんの方にボールが。

 まだいたんだ……

 話をしたこともないため、なるべく触れずにことを済ませたいと思い、急いで勢いよく転がるボールに向かった。そしてボールがやっと目の前に転がり止まった瞬間、背後から誰かの声が聞こえる。


「桃ーっ、ごめーん。もう一つボール行ったー!」


 振り返る間もなく、大きな声が響き渡る。どうやら別のボールも遠くへ転がっていったらしい。



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