第40話 波乱の予感.1
——そして、今に至る。
水族館のエントランスに立ちながら、俺は母さんが周囲に囲まれ、関係者と談笑している様子を遠目に見守る。
母さんのこういうところ、尊敬に値するとは思うけど、少しあきれるところもある。でも、こうして仕事の場でも堂々としている姿を見ると、やはりすごいのだと思う。何者かになれたのだ。この堂々たる水族館が、それを物語っている。
風に揺れる木々を見上げながら、そんな母さんの背中をじっと見つめた。
*
部活のバスケの練習はいつも通り進んでいるけれど、何だか今日は、ぽっかりと心に穴が開いたような感じだった。
「桃っ、今日調子良いじゃん」
いつもの調子で結衣が、隣にやってきた。手にはボールを抱えている。
私は、まあね、と苦笑いを返す。
たしかにまだ、もやもやとしたものは拭いきれてないけど、感情は一つにまとまって、だいぶ落ち着きを保てているような感覚はあった。何か、心の奥に迫り来るような、不快だったボールをつく音も、嘘だったかのように平静に響いている。
「鳴海君がいないと平和でいいわ~」
そんなに私は秩序を乱してますか? と思ったことを、結衣の顔を見て、すぐにその通りです、と自分を
「すみません……」
すると結衣は笑いながら、滝本君の話を始めた。
「滝本君はいつも通り女子と楽しそうに話してたし、特に問題なさそうだったけどね」
人気者の滝本君は、いつものように女子たちと笑い合っていた。でも、鳴海君と一緒にいる滝本君の姿を思い返すと、少しばかりは無理をしているようにも見えたのは私だけかな、とも思う。
お祭りからずっと気にかかっていたことを、私は思いきって訊いてみた。
「ねえ、結衣。滝本君との仲はどうなの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます