第40話 波乱の予感.1


 ——そして、今に至る。

 水族館のエントランスに立ちながら、俺は母さんが周囲に囲まれ、関係者と談笑している様子を遠目に見守る。

 母さんのこういうところ、尊敬に値するとは思うけど、少しあきれるところもある。でも、こうして仕事の場でも堂々としている姿を見ると、やはりすごいのだと思う。何者かになれたのだ。この堂々たる水族館が、それを物語っている。

 風に揺れる木々を見上げながら、そんな母さんの背中をじっと見つめた。



 部活のバスケの練習はいつも通り進んでいるけれど、何だか今日は、ぽっかりと心に穴が開いたような感じだった。


「桃っ、今日調子良いじゃん」


 いつもの調子で結衣が、隣にやってきた。手にはボールを抱えている。

 私は、まあね、と苦笑いを返す。

 たしかにまだ、もやもやとしたものは拭いきれてないけど、感情は一つにまとまって、だいぶ落ち着きを保てているような感覚はあった。何か、心の奥に迫り来るような、不快だったボールをつく音も、嘘だったかのように平静に響いている。


「鳴海君がいないと平和でいいわ~」


 そんなに私は秩序を乱してますか? と思ったことを、結衣の顔を見て、すぐにその通りです、と自分をいましめた。間違いなく、いろいろと迷惑をかけてしまっている。


「すみません……」


 すると結衣は笑いながら、滝本君の話を始めた。


「滝本君はいつも通り女子と楽しそうに話してたし、特に問題なさそうだったけどね」


 人気者の滝本君は、いつものように女子たちと笑い合っていた。でも、鳴海君と一緒にいる滝本君の姿を思い返すと、少しばかりは無理をしているようにも見えたのは私だけかな、とも思う。

 お祭りからずっと気にかかっていたことを、私は思いきって訊いてみた。


「ねえ、結衣。滝本君との仲はどうなの?」

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