第33話 ジェラシー.1


 翌日の日曜日、体育館では練習試合の反省を生かした厳しい練習が行われていた。

 秋とは程遠い空気に、混ざり合うようにして熱気が体育館内に染み渡り、皆んなの息づかいが激しく切れる。

 私はボールを持ちながら、一つ一つのプレイに集中していた。コーチの指示が飛び交う中、ミスをするとすぐに次の走り込みが待っている。チームメイトたちも、昨日の試合の反省点を反復して、各々のプレイに全力を注いでいた。



 練習は午前で終わり、なるべく誰にも気づかれないように抜け出そうと、そそくさと帰ろうと体育館の隅でバッグを持ち上げると、結衣に捕まった。


「こら」


 と、小さな子供をしかるような声をかけられ、振り返ると、そこには結衣が立っていて、片手を軽く上げている。そしてチョップされる。結衣の手が私の額にちょこんと落ちた。

 私は、自分が捕まった理由はわかっていたけど、わざとらしく結衣と対峙した。


「え、何? 結衣…?」


 ちょっと不満げっぽく眉もひそめて。


「とぼけるな。ほら、行くよっ」


 結衣はにっこりと笑いながら言った。


「…うん、行きます」


 私は、何だかしょんぼりとしてしまった。



 カフェに入ると、古民家特有の木の温もりと、ほんのりとした香ばしい匂いが出迎えてくれる。カウンター近くの窓際の席に案内され、結衣と私は向かい合って座った。

 メニューをじっくり見ながら、楽しげに選んでいる結衣を私は、ぼんやりと眺めていた。結衣と来る店は、いつもちょっと大人びた小洒落たカフェが多い。


「ここ、一度来てみたかったんだっ」


 と、結衣が微笑む。

 メニューを見る限り、自然食や美肌、アンチエイジングを目的としたサラダソースなんかがあるみたいだ。


「うん」


 と、私は小さく頷きながら答えた。

 注文を終えたあと、少しだけ無言の時間が続いたけど、結衣は、いつもと同じように、訊きたいことを、ふとした小声で、直球を投げてきた。


「ねぇ、桃、昨日の子は?」


 前もってグローブは構えていたものの、その問いかけに、一瞬どきりとした。

 やっぱり結衣には敵わないな、と思いながら、私は軽く笑ってごまかそうとしたけど、今日はきちんと話そうと思った。このあと、飛んでくる豪速球に備えて。


「バスケ部の友達。中学のときの」


 私の目を、結衣が不自然にじっと見つめるから、気になった。


「え、何?」


 微笑みを浮かべながらも真剣な表情で続ける。


「ジェラシ~……」

「は? 何それ」


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