第31話 キャプテンと副キャプテン.2


 店内は昼時の時間をとうに過ぎていたけど混雑で、カウンター席しか空いていなかった。二人でハンバーガーとポテトのセットを注文してから、窓際の席に座った。

「めっちゃ、久しぶりだよね? 中学生ぶりじゃない?」

 あんとは中学時代、同じバスケ部で、星ヶ丘学園に進学してからは、強豪校のレギュラー争いに疲れ、一年で部活を辞めたと、私は風の噂で聞いていた。


「杏こそどうしたの? バスケ辞めたんでしょ?」


 杏は、まあね、と、別に気に留めるようなこともなく、注文した物を口にしながら、話し始める。


「たまたま学校の近く通ったら、桃子の学校が来てるって聞いて、ちょっと覗いてみただけ。着いたら、すでに終わってて試合見れなかったけどね」


 あまり気に障るようなことは言いたくなかったから、ふーん、と相槌をするだけにしたけど、何だかやっぱり懐かしい気持ちが湧いてきた。


「どう? 三年から代替わりして、高校でもキャプテンやってるの?」

「いや、やってない」


 中学のとき、私はキャプテンで、杏は副キャプテンをしていた。

 杏は少し笑って、「まさか桃子がバスケ続けるとは思わなかったよ」と言った。杏は昔から思ったことを口にする。

 その言葉には悪気はないけれど、少し胸がチクリとした。中学の大会は、私のミスが原因で負けてしまったことが頭をよぎる。

 最後の大会、そう……鳴海君から連絡が途絶えた翌日の試合だ。全国行きがかかっていた大事な試合。勝てば出場が決まっていた。なのに、私のシュートは大乱調で、後半からはベンチに下がった。

 今日の練習試合も似たようなものだった。


「え? もしかして、まだスランプのまんまなの?」


 ずっと一緒にやってきた仲だ。私の今の状況も大体は、察しがついたと思う。

 押し黙る私を見かねたのか、杏は話を続けた。


「毎試合、三十点取ってた青幸中学のスターも落ちたもんだね~」


 ぜんぜん慰めになってない。杏に期待した自分がバカだった。諦めて、ハンバーガーを食べることにした。


「せっかく、うちの高校からも推薦きてたのにね」


 あの中学最後の試合のせいで、私の星ヶ丘学園への推薦は、取り消しになった経緯がある。


「でも、あれじゃない? 今日、うちの学校に勝ったんでしょ? 祐天寺って強いんじゃん」

「まあ、星ヶ丘はベストメンバーじゃなかったのもあるかも」

「そうなの? でも、うちと試合組めるだけでもすごいんじゃん?」


 星ヶ丘学園は、過去十年で全国優勝を二回成し遂げている強豪だ。今年の夏のインターハイは準優勝。


「何か、新しく来たコーチのコネとか言ってたかな」


 この話にはさほど興味がないのか、杏は、そなんだ、とだけ言い、ハンバーガーとポテトを続けて口にする。

 そしてお互い食べながら、他愛たわいもない過去話に花を咲かせ、そろそろ食べ終わることだった。私の口が止まった。


「てか、もう一人の青幸中のスターとは、あれっきりのまま?」


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