第30話 キャプテンと副キャプテン.1


 家に帰ると、玄関先で母さんの靴が目に入った。海外から近々、やって来るとは訊いていたが、一瞬立ち止まった。

 今日は散々な出来事が続いていたから、誰とも話したくない気持ちだった。


「ただいま」


 と小さな声で言いながら、ダイニングキッチンに入ると、母さんが、ばーちゃんと話しているのが見えた。母親の、ぱっと明るくなった笑みに、ひとまず、微笑みかけたが、今はとても愛想をつく気力がなかった。

 とりあえず、母さんの機嫌を損ねても、誰の得にもならないから、おかえり、とだけ伝える。


「純っ。元気そうねっ。お祭りどうだったっ?」

「大したことないって」


 相変わらず、空気の読めない人だ。俺の表情を見て機嫌を察せられないものだろうか。

 俺は、たこ焼きを手に持ち、

「これ、ばーちゃんが言ってた、たこ焼き。食べて」

 と言い、すぐに部屋へ戻ろうとした。

 しかし、空気の読めない母親に止められる。


「ちょっと待ってよ、純っ。どうなの? 新しい友達は?」


 でも、そこはさすが、ばーちゃんだった。

 母さんに声をかけられたが、たこ焼きを受け取った、ばーちゃんが、お礼の言葉と一緒に、「まあ、今日は純君も疲れてるから」と、優しく間に入ってくれたことにより、俺はそのまま部屋へ向かうことができた。

 ドアを閉めると、深いため息が出て、ベッドに倒れ込んだ。

 今日は本当に疲れた。誰とも話したくない。そう思いながら、目を閉じた。



 翌日の練習試合は、上々の出来だった。私のプレーは、監督の期待とは程遠い内容だったけれど、チームとしてはまずまずの結果を出せたといえる。結衣を中心にボールが回り、最後は接戦を制した。チームメイトはみんな笑顔で、達成感が漂っていた。


 帰り支度が終わり、体育館の外に出て、ほっと一息ついていると、突然聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。


「桃子っ!」


 振り向くと、中学時代の友達が手を振りながらこちらに向かってくるのが見えた。


「桃っー! みんな行くってよー?」


 連なるようにして結衣にも呼ばれる。

 このあとチームメイトと一緒に打ち上げに行こうと誘われていた。私は少し悩んでから「ごめんっ、ちょっと用事できちゃったっ」と、伝え、中学時代の友達と駅前のファストフード店で話をすることにした。


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