第27話 眩しすぎて.2

 鳴海君の長い腕が、私の頭上を越えて、見事に大きな手の中に、たこ焼きが収まる。もちろん中身も無事だ。

 ——た、助かった。

 心の底から安堵した。

 下手したら、鳴海君の頭の上に、たこ焼きをぶちけるところだった。

 ほっと肩をなでおろして、私は体勢を整える。


「大丈夫か?」


 表情はわからないけど、鳴海君の穏やかな声に、なお私の心は落ち着いた。


「あ、平気。心配してくれてありがとう」

「この、たこ焼き、俺がもらっちゃっていいの?」

「あ、大丈夫だよっ。鳴海君、食べたいかな、と思って買ったやつだから」


 本当は一緒に食べたかったけど、これ以上、こじらせる訳にはいかない、と思って諦めた。

 そう、それでいい、今日はこれでいいんだ、そのつもりだった。

 今日はこれで無事に終わる、きっと、今日は最初からそういうシナリオだった……

 の、はずだったのに……

 神さまは、何でか私に、いたずらばかりする。

 急に大きく鳴り響いた祭囃子の太鼓の音に、近くにいた犬が驚いて突然吠え、その声にびっくりした私は再び体勢を大きく崩してしまう。膝がカクンと曲がった。

 そして、やばい、と思ったときには、もう鳴海君にもたれかかって、ゆっくりと二人で、そのまま後ろに倒れる。

 二人が倒れた瞬間、世界がスローモーションに感じられた。ああ、またやってしまった。私は頭の中で叫んでいた。これ以上、鳴海君に迷惑をかけるわけにはいかないと思っていたのに。なんでこうなるのかと、自分に苛立ちすら覚える。なのに、何でいつもこうやって失敗してしまうんだろう。

 鳴海君の体温が伝わってくる。そして恥ずかしさと申し訳なさで、私は顔が真っ赤になっていることを自覚していた。鼓動が速くなり、頭の中はぐるぐると混乱した感情でいっぱいだ。

 今の状況を、どうやって説明すればいいんだろう。何かを言わなければいけないのに、頭が真っ白で何も思いつかない。


「ご、ごめんなさい……!」


 ようやく口から出たのは、それだけだった。

 鳴海君の反応をうかがうために、少しだけ顔を上げる。でも、お面のせいで彼の表情を読み取ることはできなかった。ただ、手が私の肩に触れているのを感じる。たこ焼きも何とか無事みたいで、ほっとした。

 しかし、まだ神さまは試練を与える。

 私たちがぎこちなく、お互いに距離を取ろうとしたその瞬間だった――。

 突然、強烈な光が私たちを一瞬だけ照らし出した。

 目の前が真っ白になり、思わず目を閉じる。心臓がドキドキと跳ねるのが自分でもわかる。何が起こったのか、一瞬理解できなかったが、車が走り去って、ベッドライトだったのだと理解した。

 でも、本当の試練はこれではなかったなかったのだと気づくと、血の気が引くのがわかった。


「え、ちょっと!?」


 結衣の声が聞こえる。

 見上げると、驚愕した表情で私たちを見つめている。私と鳴海君は、まだ地面に倒れ込んだままだ。体勢がとても不自然で、誤解されても仕方がない状況に、もう一つ結衣の声が。


「眩しすぎて失目したわ」


 ——さ、最悪だ……。

 できることならば、このまま消え去りたい……

 です。

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