第26話 眩しすぎて.1
「本当に申し訳ありませんでしたー。ありがとうございます」
丁重にお礼を言われ、私たちは、母親に引きずられるようにして、連れて行かれる少年を見送った。
少年は、言い過ぎでは? と思うほどに、もの凄い剣幕で母親に叱られていたけど、あの調子だから仕方のないことなのだろう。少しばかり姿が小さくなっても、少年は、またなー、と声を張り上げている。
鳴海君の顔には、まだお面が付いたままだ。
母親の勢いの凄みに押され、少年が落としたと言うお面を返す隙すらなかった。少年は「やる!」と言っていた。
何で、お面を被ってきたのかはわからないけど。ずっと付けてきたのかな? 想像するとおかしかった。
それに、お面を付けた鳴海君からは、何となく中学生頃と同じ懐かしい雰囲気が漂っていた。私が好きだった、子供っぽくて、イタズラっぽい、柔らかい空気。
「鳴海君。はぐれちゃってごめんね」
私も少しは昔に戻れたかな?
ゆっくりと振り向いた姿は、お祭りで分け合って二人で食べた、たこ焼きの記憶を再び蘇らせる。鳴海君は、街灯の光の中に溶け込んでいるように見えた。
大好きだった、たこ焼き。また、喜んでくれるかな?
「これ買ってたんだ。鳴海君に、と思って……」
私は、ゆっくりと歩み寄る。一歩、二歩と噛み締めるように。
そして、手にしていた、たこ焼きを渡そうとした瞬間だった。え、やばい、と思った。お面の上からでも、彼の顔が驚きに染まり、透明の容器に詰められた、たこ焼きに釘付けなのがわかった。
私は足を滑らせてしまった。部活の練習から酷使し続けたツケが今きた。よりによって、こんなときに——。
たこ焼きが宙を舞う。
容器から飛び出す最悪の事態が容器に想像できた。何とかしたいけど、私の体勢は、ままならない。
でも——
だめだ、と半ばあきらめかけたとき、ヒーローは登場するのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます