第23話 戦隊ヒーロー.1

 ……いて。

 後ろから男の子がぶつかってきて、そのまま目の前を走っていくな、とぼんやりと見ていたら、後を追うようにして、母親らしき人物が、ごめんなさい、と頭を下げてきて、待ちなさいっ、と声を張り上げ、嵐のように去っていく。


 小学生低学年くらいだろうか。


 親子の姿が過去の自分と重なったのせいか、足を踏み出したときに、ふと中学生まで過ごした、鎌倉での記憶をさかのぼった。

 でも、それはとてもぼんやりとした曖昧なもので、ただ、地域のお祭りに家族と来たという事実的なものだけだった。

 俺は、さほど気にすることもなく歩き始める。まあ、幼少期の記憶など、そんなものだろう。そして、二歩、三歩と進めたとき、何か違和感を覚え、そのまま後ろを振り返って気づいた。


 いない。

 一瞬、状況が飲み込めなかった。

 居ると思っていたはずの一之瀬の姿がなかった。

 はぐれた? いつからだ?


 辺りを見回しても、それらしい姿はない。無情にもお祭り気分の人々の声だけが耳に残る。今、見えている光景が、何だか安っぽく感じる。


 咄嗟とっさに頭の中で、探しにいくか、帰るか、の二択が浮かんだが、どうする? と、少しだけ脳みその前頭前野ぜんとうぜんやを活性化させただけで、至った結論は、割とあっさりとしたものだった。


 帰る、の一択。

 そもそも俺には関係ないことだ。一之瀬の目的などは知る由もない。俺が何をしたのか知らんが、懺悔ざんげの毒霧なら後日でもいいだろう。できる限り避けたいところではあるが。

 それに滝本の邪魔をするのも野暮ってもんだ。今ごろは、会話も弾んできたところに違いない。あいつの目的も不明だが、今、電話なんてしようものなら、戻ってきそうだし、それはそれで面倒だ。あいつは謎に、俺に気を使ってくるがある。

 まあ……頃合いをみてメールを送っておけばいいだろう。


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