第20話 ひゃいっ⁉︎
二人はラムネを片手に、屋台から外れた大きな木の影の中にいた。
……どうしよう。
今日こそは、と特急列車みたいな意気込みだったはずが、いざ目の前に近づいてくると、やっぱり足がすくんできた。
踏切の警報音が、カンカンカンと頭の中で鳴り響き、踏切内の侵入を防ぐ遮断機の棒が、上がったり下がったりと、まるで踊り狂ったように、ばったんばったんと何度も進路を妨害してきて、私の心に揺さぶりをかけてくる。
どきどきする。
このままでは心臓が破裂してしまうのではないかと思うほどに、一歩、一歩、前に足を進めるたびに、鼓動が大きくなって弾む。
そんなことになっているなんて知るはずもない結衣は、小走りで二人の元へ向かって行くけど、私は、心を落ち着かせるべく、自分のペースで歩いた。
「滝本君、お待たせぇー」
離れていった背中から大きな結衣の声が聞こえた。滝本君は気前よく右手を上げている。表情を見るに、私たちが遅れて来たことは、気に留めてもなさそうだ。
鳴海君は、挨拶程度に軽く片手を上げるだけで、我関せずという感じに見えた。
私も合流すると、すぐに滝本君が声をかけてくれる。
「おう、一之瀬もお疲れなっ」
気さくで穏やかな雰囲気だったため、少し緊張が和らいだ。ひょっとしたら、良い人なのかもしれない。私がただ勝手に偏見を抱いていただけで。流行りをいち早く取り入れた格好からは、落ち着きがなく浮ついた性格にも見えるけれども。
ひとまず、私も遅れて来たことを詫びた。
「別にいいってことよ。気にすんな、俺たち二人で楽しんでたから」
なっ、と滝本君は視線を送っているけど、鳴海君は、どうでもよさそうな顔をして、「ああ」と、小さく声を溢した? たぶん、私の耳にそう聞こえた。
その様子は、私がいつもお母さんにしている気のない態度と重なり、自分の普段の行動を見直すと同時に、やっぱり鳴海君は私なんかと会いたくないのだ、と現実を突きつけられた気がした。
ますます……直接、顔を見ることができなくなる。
そんな中、結衣と滝本君は楽しそうに会話をしている。
「——滝本君のことだから、待ってる間に、他の女の子とどっか行ってるかと思ってた。『なり』でさ~とか言って」
「ばかやろ。俺だって、『ならない』ことだってあるってもんよっ」
二人は笑っている。
「純は押しに弱いから危なかったけどな~」
いつの間に、結衣は滝本君と仲良くなったのだろう。学校で話しているのを見たのは、つい最近になってからだ。ちなみに、私は滝本君とは話したことがなかった。
しばらく二人のやり取りをぼんやりと眺めていると、滝本君の突然の言葉に耳を疑った。
「純っ。じゃあ俺たち行くから、一之瀬のことよろしくな~」
鳴海君が「おい、何言ってんだ?」と驚く前に、私の「ひゃいっ⁈」という声が先に飛び出た。
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