第19話 祭囃子
*
——遅くなっちゃった。でも何とか間に合った。
結衣と一緒に神社の境内に駆け込んだ。
「ちょっと息整えよ」
と結衣が息を切らしながら言う。「鬼練習の後に、このダッシュ。さすがに死んじゃう」
「……だね」
私も肩で息をしていた。膝もカクカク震えている。声も一緒だった。
「とりあえず、屋台見ながら、二人探そっか」
境内に広がるお祭りの光景は、まるで夢の中に迷い込んだようだった。
「見て、あの綿菓子! 映えそうっ」
結衣が興奮気味に指を差した。
屋台の前には、雲のようにふわふわとした綿菓子が揺れていて、その色とりどりの糖衣が灯りに照らされ、幻想的な輝きを放っていた。私たちはその前に立ち止まり、ついその美しさに見とれてしまった。
屋台の周りには子どもたちが楽しそうに駆け回り、手にしたおもちゃやお菓子を見せ合っていた。カラフルな風船が空に舞い上がり、その下で賑やかな声が響いている。
どこからともなく聞こえてくる、太鼓や笛のリズムに合わせて、踊りを披露する人々の姿もあった。その中で、祭りの伝統的な衣装を身に
「なんだか、ずっとこのままでいたい気分」結衣がしみじみと言い、私も、
「本当にね。こういう瞬間って、普段の忙しさを忘れさせてくれる」と、頷いた。
「やっぱ浴衣着たかったね~」
結衣は歩きながら、たこやき食べたい、とか、祭りといえばりんご飴だよね、とか言いながら辺りをキョロキョロとしている。
結局、家まで帰る時間がなかった私たちは、練習が終わってから、そのままの足でやって来たためジャージ姿だった。あれこれ色々と考えていたことは、全部水の泡となった。替えの服は持っていたから着替えてはきたのだけど。
……カップルかな?
私たちと同い年くらいだ。女の子の浴衣姿が初々しく映る。
素直にうらやましかった。髪の毛は可愛くお祭り仕様にアレンジされている。目の前の二人を見ていると、中学生の頃、彼と一緒に、ここの神社のお祭りへ来た思い出が
あのときも、部活終わりに慌ただしく浴衣の準備に追われた記憶が、昨日のことのように覚えている。
ほんの少しだけ人通りが減ったタイミングで、結衣に声をかけられたときだった。「あ、いたいた! 滝本君たちっ」
ちらりと男子バスケ部のキャプテンの姿が、私の視界に入ったのは。
隣には、祐天寺の生徒らしき女の子を連れていた。
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