第19話 祭囃子


 ——遅くなっちゃった。でも何とか間に合った。

 結衣と一緒に神社の境内に駆け込んだ。


「ちょっと息整えよ」


 と結衣が息を切らしながら言う。「鬼練習の後に、このダッシュ。さすがに死んじゃう」


「……だね」


 私も肩で息をしていた。膝もカクカク震えている。声も一緒だった。


「とりあえず、屋台見ながら、二人探そっか」



 境内に広がるお祭りの光景は、まるで夢の中に迷い込んだようだった。祭囃子まつりばやしが聞こえ、リズム良く太鼓の音がなるたびに、境内全体が一瞬で昼間のような明るさに包まれるように思えた。


「見て、あの綿菓子! 映えそうっ」


 結衣が興奮気味に指を差した。

 屋台の前には、雲のようにふわふわとした綿菓子が揺れていて、その色とりどりの糖衣が灯りに照らされ、幻想的な輝きを放っていた。私たちはその前に立ち止まり、ついその美しさに見とれてしまった。

 屋台の周りには子どもたちが楽しそうに駆け回り、手にしたおもちゃやお菓子を見せ合っていた。カラフルな風船が空に舞い上がり、その下で賑やかな声が響いている。

 どこからともなく聞こえてくる、太鼓や笛のリズムに合わせて、踊りを披露する人々の姿もあった。その中で、祭りの伝統的な衣装を身にまとった人たちが、楽しげに足を踏み鳴らし、華やかな踊りを繰り広げていた。


「なんだか、ずっとこのままでいたい気分」結衣がしみじみと言い、私も、

「本当にね。こういう瞬間って、普段の忙しさを忘れさせてくれる」と、頷いた。



「やっぱ浴衣着たかったね~」


 結衣は歩きながら、たこやき食べたい、とか、祭りといえばりんご飴だよね、とか言いながら辺りをキョロキョロとしている。

 結局、家まで帰る時間がなかった私たちは、練習が終わってから、そのままの足でやって来たためジャージ姿だった。あれこれ色々と考えていたことは、全部水の泡となった。替えの服は持っていたから着替えてはきたのだけど。


 ……カップルかな?


 私たちと同い年くらいだ。女の子の浴衣姿が初々しく映る。

 素直にうらやましかった。髪の毛は可愛くお祭り仕様にアレンジされている。目の前の二人を見ていると、中学生の頃、彼と一緒に、ここの神社のお祭りへ来た思い出がよみがえる。二人きりではなく、何人かクラスメイトたちもいたけど、私にとっては、初めてのデートだった。

 あのときも、部活終わりに慌ただしく浴衣の準備に追われた記憶が、昨日のことのように覚えている。

 ほんの少しだけ人通りが減ったタイミングで、結衣に声をかけられたときだった。「あ、いたいた! 滝本君たちっ」

 ちらりと男子バスケ部のキャプテンの姿が、私の視界に入ったのは。

 隣には、祐天寺の生徒らしき女の子を連れていた。

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