第17話 山田と鈴木.1
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「
滝本は手に持ったスマホの画面を確認してから、ズボンのポケットに入れた。「今、メールきたわ」
「そうか」
と声を溢しながら、俺は、このままドタキャンにならないかな、そう考えてしまう。
空は夕暮れの紫色に染まり始め、滝本と二人、古びた神社の入口の鳥居の前で立ち尽くす。提灯の明かりがぼんやりと灯り、境内を幻想的な雰囲気に包んでいる。
「純、どうする?」
正直なところ帰りたかったが、滝本の心なしか浮ついた表情を見て、押し黙ることにした。
「……まあ、せっかくだから中、行くか」
「さっすが、純っ。わかってんな~。行くぞ行くぞー」
……おい、滝本よ。
おまえは、いつも楽しそうだな。
「やっぱスッゲー人だな。浴衣、最高~。純は初めて? 都内の祭り」
秋っぽい適度な風がそよぎ、カサカサと音を立てて揺れる木々の葉の風情を蹴散らすかのように、太鼓の音が響く。境内では屋台がずらりと並んで、焼きそばやたこ焼きの香ばしい匂いが漂い、今日という日を心待ちにしていた人たちの笑い声が、耳についた。
「さすがに、祐天寺の生徒のやつ、たくさんいんな~」
たしかにそれらしい生徒は、ちらほらと見受けられた。学校から近いというのもあるのだろう。
俺は、ああ、とうなずいてから「てか祭り自体が、小学生ぶりだな」と溢すと、滝本は「まじかよっ⁈」と、目を丸くする。
……俺は珍獣か。
そのまま、辺りの屋台を物色しながら問いかけた。
「何で、斎名なんだ?」
一之瀬のことは何となく理由はわかる。おそらく俺に、何か用があるのだろう。あれから、ぱったりと接触をしてくる気配を見せなかったのは、不気味ではあるが。
滝本は、なりだよ、なり、と再び前に口にした言葉を出し、「そう気にすんなって。ちょっと運動部の女子も気になっただけだっ」と俺の肩を軽く叩いて笑った。
その答え方も不可解だった。そもそも斎名結衣は、滝本の趣味趣向と外れている。いつも滝本が近づく女子とは正反対な気がしていた。それに、この前、彼女できた、と言ってなかったか? 滝本は常日頃から『彼女は一学校に一人』と豪語している。
ますます不思議だ。滝本よ、おまえの狙いは何だ?
そんな将来の俺にとって全く問題のないことを、あれこれ考えながら歩き、喉が渇いたな、などと思って滝本を呼び止めようとした途端、声をかけられた。
「あっれー? 滝本君と鳴海君?」
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