第12話 紛い物.2

 時々、自分が自分ではないような……どこか、ちぐはぐした気持ちに駆り立てられる。

 俺はどこで間違ったんだ? 遺伝子を組み換えしたトウモロコシのように、不完全? 紛い物? いや、オリジナルではない。そんな気持ちだ。

 俺、一人だけが、この激動の世の中で、取り残されてしまった気がして、孤独を感じる。


「……祭りか」


 椅子に座って机に向かった。

 部屋は閑散としていて落ち着いた。がちゃがちゃとしていない方が俺には心地が良い。ここはじーちゃんが使っていた部屋だ。物がないのは、じーちゃんが亡くなって、ほぼ処分をしたと、ばーちゃんが言っていた。

 机はじーちゃんの使っていた物で、布団は直敷きのセルフ式。ここへ来るに当たって用意してもらった本棚には、漫画、小説、ラノベ、などが並ぶ。文学に興味のない俺にとっては不要で、全くの手付かずのままだが。

 スマホで検索すると、中目黒神社についてたくさん出てきた。

 毎年、地域の恒例行事となっている例大祭は、境内にて屋台の出店、周辺道路にて神輿等が行われる、らしい。それほど大きな神社ではないが、大勢の人で賑わうのだという。

 ため息が出て、行くのをためらい、行かない言い訳を考えたが、さっき見た、ばーちゃんの嬉しそうな顔を思い出し、行かない選択肢を却下した。

 すると、あの女の姿が、頭の中を掻きむしってきた。


 ——一之瀬桃子。


 一体、やつは何なんだ?

 今日も朝から俺の前に、何処からともなく現れた。

 あの生き物は一体……?


 まずは朝一番、登校して下駄箱で靴を履き替えようとしていたときだ。

 ……そう、あれは小動物だ。偶然を装い、愛おしさを前面に押し出して現れたリス。

 ちょこちょこっと隅の方から視線を感じたと思ったら、足下をつまずいたのか、奇声を上げてその後、逃げた。


 次に授業と授業の間の休み時間。

 教室で滝本と話をしていると、ドアの外の付近をちょこまかと動き回り、ちらっと顔を覗かせては消えるを繰り返し、何かを狙っていた。

 しかし、生徒とぶつかって予期せぬタイミングで教室内へと入ってしまって恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして慌てて逃げ去った。

 あれは警戒心が強いというネズミだった。きっと、壁沿いを移動してやって来たのだろう。


 そして昼休み。

 今度は猫みたいに、冷静さを保ちつつ冷めた目でこちらの様子を伺っていると思いきや、購買に並ぶ生徒の並みに押し出され、財布からお金をばら撒き散らし、皆を大混乱に陥れた後に、パニックを引き起こし、気付いたときには姿を消していた。


 やつは俺の行く先々で視界に現れ、そんなことが、今日はあと五回はあった。


 狙いは何だ?

 そう思ったとき、はっとして悪夢がよみがえる。


 ま、まさか、毒霧かっ⁈


 あれはまさに悪役レスラーの使う反則技だ。まさか、あの忌々いまいましい毒霧を再びお見舞いするつもりなのか⁈

 俺が一体、何をしたってんだ?

 思わず生唾なまつばを飲み込むと、背筋がゾッとした。明日からのことを考えると恐ろしく思う。


 ……おそらく、きっと。俺はこれからしばらく、怯えながらの学校生活を余儀なくされるのだろう。

 ……だ、誰か。俺の小刻みに震える手を、止めてくれ。

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