第9話 それぞれの思い.1


「おい、滝本よ、何をどうやったら、その展開になるんだ?」


 下校の際に訊いた。


「そー言うなよ親友~。なりでそうなっちまってさ~」


 呆れた。そもそも『なり』とは何だ? と思ったが、俺は黙って足を進めた。一体、何を考えている? 何か、含んだ笑みが不気味だ。


「まっ、悪いようにはしないからさっ」


 滝本は、最寄りの祐天寺駅までの道のりもついてくる。女子との予定がないときだけらしいが。


「んじゃ、おれはここでエリコと約束してっから」

「ああ、またな」


 滝本と別れて、改札口を通る。


 ……何だ?

 この悪寒は。

 嫌な予感しかしないぞ⁈


 駅のホームで立ちながらスマホをいじっていると、メールが届いた。滝本からだ。

 すぐにタップすると、『すまん!』『祭りよろしこ!』という文章と、ウサギとクマが泣きながら懇願するスタンプだった。

 俺は、何か憎めないやつだな、と思いながら電車を待った。

 どんな祭りなのだろうか? 花火大会か?

 幼少期に家族で行っただけの記憶しかない俺には、祭りと聞いても、いまいちピンとこなかった。


 一駅で中目黒駅に着くと、人の多さでこの駅がいかに都心にあるかがわかる。代官山など主要な駅までは、徒歩十五分圏内だという。

 駅を後にして、川沿いを歩いた。立ち並ぶ、カフェやバーなどの飲食店、アパレルショップやインテリアショップなどの多彩な店舗が、夕陽に染まる。川面にも、そのオレンジ色は影響をもたらし、反射した光は無数の星が瞬いているかのように見える。

 この道は、人々にとって特別なのだろう。

 桜の木々が並ぶ道は、今は緑の葉が風に揺れているが、春には満開の花で彩られると、ばーちゃんから聞いた。

 そして、毎日の通学や通勤の路でもある。きっと友達と笑い合った思い出や、一人で考え事をした時間が詰まっていて、今日もまた、皆それぞれ、この道を歩きながら、一日の出来事に思いをせるのだ。

 俺には、全くもって、関係のないことだけど。

 途中、小さな橋を渡り、大通りを離れ、いくつか坂の上り下りを繰り返すと、マンションが見え、やや年季の入ったエントランスに入ると、管理人が笑顔で迎えてくれた。「おかえりなさい」と言われると、自然と頬がゆるんだ。

 エレベーターを降りて、足を進め、ドアを開ける。

「ただいま」

 家の玄関に入ると、おかえりなさい、と、温かい光を放ったばーちゃんが迎え入れてくれる。

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