第10話 それぞれの思い.2
*
部活の練習の合間に体育館の片隅で、
「今日は調子良さそうじゃんっ」と、体を弾ませてやってきた結衣に肩を軽く叩かれた私は、笑顔で「まあね」と答えてから訊いた。
練習に集中しないといけないのに、どうしても頭から離れなかった。結衣の言葉が、まだ耳の奥で響いている。『四人で行こ!』。まるでエコーのように何度も繰り返される。
どうしてそんなことを言ったのか、結衣の意図が全く理解できない。彼に避けられているのは明白なのに、どうして一緒にお祭りに? それに、気になることがあった。
「ねえ、何で滝本くんなの?」
結衣のお気に入りの男子は他の人だ。前にそう聞いたことがある。ましてや、あんなチャラい感じの男子なんて——。真剣にスポーツに取り組んでいる結衣とは釣り合わない、そんな気がした。
「今日は男バスもいるね」
結衣は、ぼんやりと男子バスケ部に視線を移してから私を見た。今日はバドミントン部もいた。
「なり、だよ。なり」
言ってから、結衣はまた男バスをちら見した。
そう、結衣の気になっている男子は、男子バスケ部のキャプテンだ。だから、お祭りには、視線の先の男子と行きたいはずなのに。
私も男バスに視線を移した。
「よかったの?」
すると、「次、私たちの番だよ!」と女バスのキャプテンの声が響き、結衣と二人で、気持ちを切り替えようと、よし、と声に出して深く息を吐く。今は部活に集中だ。
でも、あ……何だろ? この気持ち。
結衣には本当に申し訳なく思うけど、心のどこかで、彼とのお祭りが楽しみな自分がいることに気づいてしまう。避けられているのに……。
自分でも理解できない感情に戸惑いながら、私はコートに向かって歩き出した。
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