第10話 それぞれの思い.2


 部活の練習の合間に体育館の片隅で、

「今日は調子良さそうじゃんっ」と、体を弾ませてやってきた結衣に肩を軽く叩かれた私は、笑顔で「まあね」と答えてから訊いた。

 練習に集中しないといけないのに、どうしても頭から離れなかった。結衣の言葉が、まだ耳の奥で響いている。『四人で行こ!』。まるでエコーのように何度も繰り返される。

 どうしてそんなことを言ったのか、結衣の意図が全く理解できない。彼に避けられているのは明白なのに、どうして一緒にお祭りに? それに、気になることがあった。


「ねえ、何で滝本くんなの?」


 結衣のお気に入りの男子は他の人だ。前にそう聞いたことがある。ましてや、あんなチャラい感じの男子なんて——。真剣にスポーツに取り組んでいる結衣とは釣り合わない、そんな気がした。


「今日は男バスもいるね」


 結衣は、ぼんやりと男子バスケ部に視線を移してから私を見た。今日はバドミントン部もいた。


「なり、だよ。なり」


 言ってから、結衣はまた男バスをちら見した。

 そう、結衣の気になっている男子は、男子バスケ部のキャプテンだ。だから、お祭りには、視線の先の男子と行きたいはずなのに。

 私も男バスに視線を移した。


「よかったの?」


 すると、「次、私たちの番だよ!」と女バスのキャプテンの声が響き、結衣と二人で、気持ちを切り替えようと、よし、と声に出して深く息を吐く。今は部活に集中だ。

 でも、あ……何だろ? この気持ち。

 結衣には本当に申し訳なく思うけど、心のどこかで、彼とのお祭りが楽しみな自分がいることに気づいてしまう。避けられているのに……。

 自分でも理解できない感情に戸惑いながら、私はコートに向かって歩き出した。

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