第16話 地獄の練習

 お祭り当日の、部活は地獄だった。

 体育館の中の空気は湿り気を帯び、皆んなの早まる息遣いとスケットボールが床に弾む音が響く。コートの端から端まで全速力で駆け回り、交互にドリブルをしながらリングに向かってシュートを打ち続ける。

 汗が額から滴り落ち、時折バスケットボールが手から滑りそうになる。それでも、皆んな決して立ち止まることなく、苦痛に耐えながらも次々とシュートを放った。


「まだまだ! ラスト五分!」


 コーチの声は、絶え間なく続く練習の合図であり、皆んなの心にプレッシャーをかけていた。私は息が上がり、足が重く感じる中、それでも必死にシュートを決めようとした。隣で同じように疲れ切った仲間たちも、顔を真っ赤にしながら互いに励まし合っていた。



「あーーー、あの女鬼コーチ。明日試合だってわかってんのかー?」

「ほんと、このままじゃ、オーバーワークでくたばりそーー」

「てか、あんな、おっとりして可愛い顔してるのに、言葉きつすぎ」


 放課後の練習の休憩に、皆んな水道の蛇口がたくさんある水飲み場に駆け込んだ。皆んな、想像以上のハードワークに不満たらたらで、頭から水を浴びるようにかぶっている。


「あれ、絶対、今日、中目黒のお祭りだってわかってないよねー? まだ練習するつもりでしょ?」

「わたし男バスと約束してるのにィー」


 周囲を見る限り、他の部活の生徒たちは皆んな帰り支度をしている。毎年、お祭り前の部活動は早めに切り上げるのが慣例だ。男バスも帰り始めている。


「ほらほらっ、皆んなしょーがないじゃん。鬼コーチは本気で全国目指してんだから。もうちょっと頑張ろっ!」


 結衣もやって来た。

 皆んな、結衣がそう言うなら、みたいな雰囲気になって渋々やる気スイッチを入れ始める。


「ねっ? 桃っ」


 私も言われて、皆んなに向かって、胸元で小さく両手をグーに握り、「がんばろっ」と息を巻いた。


 そのあとに、女バスのキャプテン、さおりんも来て、「先輩たちのためにも、ウチらは絶対、全国行くよっ」と、皆んなを鼓舞する。


 正直なところ、私も今日の練習はきつすぎると感じていた。でも、結衣の言う通りコーチは本気なのだと思う。

 コーチは十年前の全国大会ベスト8のメンバーだ。祐天寺はそれ以来、全国へは行けていない。

 あと、私は直接こうも言われていた。当時のコーチのポジションは私と同じ3ポイントシューターで、新チームの戦術は、遠距離のシュートを中心に組んでいくことから、私に期待していると。

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