第7話 桃肌.1

「ただいまー」


 何とか無事に帰宅した。

 部活の練習では、雑念に打ち勝つことができず、ズタボロだったけど。全くシュートが安定しなかった。

 とにかく疲れた、ひとまず頭の思考を整理したい。

「おかえり。遅かったじゃない?」

 大学生のお姉ちゃんだ。今は一人暮らしをしているけど、たまにちょこちょこ実家のマンションに帰ってくる。

 リビングにはお母さんもいる。おかえり、と声がした。


「何? 祐天寺はこんなに遅くまで練習? ウィンターカップはレギュラー取れそう? インターハイは残念だったね」

「わかったから、ありがと」


 たたみかけるように質問攻めする姉をよそにして、私は自分の部屋へと向かった。

 ドアを閉めた音と重なるようにして、一瞬ほんの少しだけ、過去の思い出が浮かんだ。お姉ちゃんは、小、中、高、と花形選手で、私にとっての憧れの存在。私がバスケを始めたきっかけでもある。今はボールをつくことさえしなくなってしまったけど。

 私は電気をつけてから、ベッドの上に小さく座り、今日あったことを振り返った。


 そして、彼を思う。


 中学二年生の頃、私がバスケで思うような結果が出ずに悩んでいたときに、今のプレースタイルへ導いてくれたのは彼だ。彼のアドバイスなしでは、今の私はないだろう。

 ……明日、どんな顔をして会えばいいのだろう。

 とにかく、まずはきちんと謝らなくては。

 どうやって?

 考えれば考えるほど、これからどうすればいいのかわからなくなってくる。明日からの学校生活を想像しただけで、期待と不安と、恥じらいみたいな感情が湧いてきて、鏡を見なくとも、顔がほてって赤くなっているのがわかる。

 ……ああ、どうする?

 両手で顔を軽くパシンと挟んでから、自分に言い聞かせる。

 頑張れ、私っ。



 翌日の放課後。


「あっれー? 体育館の扉、閉まってるー。せっかく一番乗りで来たのにぃ~」

「珍しいね。鍵、私取ってくるよっ」


 私がそう言うと、結衣はスマホを鞄から取り出して、「あー、他の人に今、メールで持ってきてくれるように頼んだから平気、平気っ」と、にこり笑ってから指でOKサインを出した。


 私もそれに同意し、部活にやってくる皆んなを待つことにした。二人で、扉の手前の三段ある階段に腰を下ろす。

 すると結衣は立ち上がり、突如大きな声を上げた。


「滝本くーん! 鳴海くーん!」


 ——え、何で?


 下校中の二人に手を振る結衣の姿を見て、パニックになった私は、足元を滑らせ階段を転げ落ちてしまった。

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