一章≪鳥籠の中から≫
Ⅰ『閉ざされた町』
山奥に小さな町があった。
俺はここを鳥籠のようだと思った。
町の周囲を囲うように構築された結界の外を『禁則域』と呼び、如何なる理由があろうと立ち入りを禁じている。
理由はなんだっただろう?
化け物が出るから?
確かそんな眉唾物な話だった気がする。
誰も見たことがない化け物の存在に怯え、誰も町の外に出ようとはしない。
何年も前に見かねた若い衆は頭のお固い老人たちに別れを告げて町を出て行ったという。
指で数えられる程の老人と不自然に残った子供たちだけがこの町をまだ町として存続させている。
町と言うには名ばかりで、実際は石造りのちっぽけな家が各々の居場所にぽつりと建っているだけ。道は舗装されていないし、店や商業施設があるわけでもない。
それでも住民が町と言うのだからと、俺も彼らと同様にこの町を『ココットの町』と呼んでいる。
このまま過疎化の一途を辿れば、結末は誰もが想像する結果となるだろう。
目を覚ましてから半年ほど経った今、俺は町長に下山をするべきだと提案したが、ことごとく却下された。
出てくるのはやはり『化け物』がいるから。
これでは悪いことをしないよう子供に脅し文句を言っているようにしか聞こえないではないか。
このままでは外に出て化け物に殺されるよりも早く、『衰退』という歴史の流れに殺されかねないだろう。
青空を漂う白雲を無感動に眺めながら、そんなことを考えていると子供たちの声が聞こえた。大声でゲラゲラ笑いながら、いつもの三人組が歩いてきた。
俺もその輪に加わる。
「今日は何して遊ぼうか」
杖を付いて彼らに近づく。
「おいおいオリさんよ。それで僕たちの遊びに着いてこられるかな?」
生意気な口を利くのはガキ大将のベルシーだ。基本的に遊びの内容を大まかに決めるのが彼の役割。誰が頼んだわけではないが、いつも決まって面白い案を出すのがベルシーだったので自然と彼が取り仕切る流れになっていた。
「もー! そんなこと言わないの! 目隠しを付けて野山を駆け回るオリはすっごいんだからね!」
優しくフォローを入れてくれたのはアンナだ。小柄ながらもベルシーに勝るとも劣らない負けん気の持ち主。最年少でありながらもベルシーの手綱を握っているのは意外にも彼女だったりする。
「確かにぼくたちには真似出来ないよね。オリはどうやって外の景色を見ているんだい?」
メガネをかけた知的な少年はドル。物知りで好奇心が大生。知らない物に遭遇するとベルシーよりも手が付けられなくなる要注意人物の一人だ。
「うーん。空気中の魔力を感知してー……うーん、説明がムズイな」
俺の目元には包帯のような白絹の布が巻かれている。布には赤黒い刻印が施され、厳重に封がされていた。この術式を施した町長曰く「友達を作るおまじない」だと言う。目隠しを付けていなくても、友達くらい作ってみせるさ。と、懇願したところでお許しが出た試しはない。
「すっげー! 僕も魔法使ってみてー!」
俺の足元を飛び跳ねるベルシー。
「魔法は危ないから使うのは禁止らしいぞ?」
「えぇ、どれぐらい禁止?」
「少なくとも晩飯は抜きだろうな」
「げっ! それは困るわ!」
魔法への興味なんて夕食の前では取るに足らない話題なのだった。
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