第8話 映画

 家に帰ると、春が笑顔で手を振って来た。まあ、手は拘束されているわけで、実際は手をちょいちょいと動かしただけだが。


「お寿司買ってきてくれました?」

「ああ、買ってきたよ。ほら」


 そう言って俺は机の上にお寿司を置く。

 無論買ってきたお寿司だ。

 追加で買ってきた唐揚げやスパゲッティパスタなどなども置く。

 全部春のリクエスト通りだ。


「ありがとうございます」


 そう言って春は目を輝かせている。

 美味しそうと思っているのだろう。


「春、遠慮せずに食べろ」

「はいっ!!」


 春はよだれがたれそうになってる。


「あの、食べさせてくれませんか?」


 そうだった、春は自分一人じゃ、食べられないんだった。


 そして俺は春の隣に座り、寿司を春に食べさせる。


「ん、美味しいです!!!」


 春は幸せそうに、寿司を食べている。それを見ているだけで嬉しくなる。


「なーに、にやにやしてんの? ロリコン?」


 奈々が耳元で話しかけてくる。


「うるせえよ」


 春に訊かれたらどうするんだよ。


「てか、お前もニヤニヤしてんじゃねえかよ」

「そうよ、嬉しいからねえ」


 こいつ、開き直りやがった。


「お姉ちゃんたちも早く食べた方が良いと思いますよ」

「そうだな。食べるか」


 そうだ、言い争いをしている場合ではないのだ。

 春と一緒に幸せな食卓を作らなければ。


「美味し」


 俺は呟いた。

 思えば寿司なんて食べるのいつぶりだろうか。

 最近はカップラーメンしか食べてなかったな。


「へー、良い顔すんじゃん」

「なんだよ奈々」

「私はいつも自炊で美味しいご飯食べてたけど、大輝は春ちゃんが来るまで、ずっとカップ飲料だったもんね」

「うるさいな」

「ふふ」


 ああ、楽しい。


 そしてその後、映画鑑賞することとなった。

 ポップコーン片手に、映画鑑賞だ。

 見る映画は、一年前の映画化の際に話題となった作品だ。

 刑事ドラマ物に当たるが、その最後の展開が衝撃的かつ、涙を流さずにはいられなくなるという触れ込みの映画で評価も高い。

 俺も見たかった映画の一つだ。

 一年経ったことで、地上波初公開となった際に録画しておいた作品でもある。

 だが、今回映画気分を味わいたい、そのため、広告の入る地上波ではなく、サブスクで公開されている方を見る。


「楽しみですね」

「楽しみだね」

「ああ」


 そして映画が始まる。

 春が俺にもたれかかったらポップコーンを与えるという事になった。


 早速人が死んだ。つるされて死んだのだ。

 そこから陰湿な空気が流れ、容疑者への聞き込みに入る。

 だが、その容疑者が全員怪しそうだから面白い。

 全員こいつが犯人ですと言われても、うなずける。

 だが、その際に一番怪しい人物が出た。主人公の弟だ。

 彼が一番怪しいんじゃないか? と思う。


 もうほぼ犯人確定だなと思った。



 だが、最期に人がさらに死んだ。

 このことで主人公の弟はアリバイが確認され、釈放された。

 だが、結局犯人は分かっていない。

 誰だとなったときに、新たな犯人候補が見つかる。主人公の十四歳の娘だ。

 彼女が犯人だったのだ。

 理由は、代理復讐だったのだ。彼女の近所の友達が過去にいじめをされており、引きこもりとなっていた。

 だからこそ、殺人を犯しても、重い罪にならない娘が殺人を代わりに侵していたのだ。


「はあ、すごい曇天返しだったね」

「ああ、殺人という行為は認めがたいが、壮絶ないじめを受けた被害者が精神的なトラウマを受けてる中、加害者が罪に問われずのうのうと生きている、そりゃ、殺したくもなるよな」

「うん、私も組織の人間を全員殺したいです」


 春が急に怖いことを言い出した。


「殺人はあかんぞ。まあ、それ相応の報いを受けてほしいのは、俺もそうだけどな」


 あいつらは許せないし。


「私も、殺しまくりたいわ」

「それは、買い枠的な意味じゃないだろうな」

「勿論よ。私を何だと思ってるの?」


 そして時刻はもう九時だ。


「そろそろお風呂入らないとね。じゃあ、はるちゃんお風呂入ろっか」

「うん!」


 そして、春と、奈々がお風呂に向かう。

 春の今の服はチャックで、脱げるようになっている。奈々がそう言う服を探してくれたのだ。



 ★★★★★


「春ちゃん入りましょ」


 お姉ちゃんは私の服を脱がしてくれた。

 そして、一緒にお風呂に入る。

 この枷は水にぬれても大丈夫な枷だと、あの人が言っていた。


「じゃあ、流すわね」


 そう言ってお姉ちゃんは私の髪を流す。

 私の髪の毛は行ってはなんだが、長い。

 切る機会がなかったから、伸びたままで、体の真ん中らへんまでの長さになっている。

 お姉ちゃんに髪の毛を流される。

 気持ちいい。


「かゆいところはございませんか?」

「大丈夫です!!」


 私は元気よく答えた。

 私にはよくわからないが、きっとこういう時の決まり言葉なのだろう。

 なんだか、良くないものを流されているような気持になる。

 私は人生でこの家に来るまでお風呂に入るなんてことがなかった。

 だからこそ、今はむずかゆい気持ちになる。

 そしてお風呂につかった。


「気持ちいい」

「ね」


 私の言葉にお姉ちゃんが同意をする。

 本当に気持ちがいい。

 手足が拘束されているけれども、お姉ちゃんが一緒に入ってるという事実で嬉しくなる。


「望むなら、大輝さんとも入りたいですけど……」

「え、大輝と? いやいや、男女は一緒にお風呂に入るもんじゃないから」

「そうですけど……」


 それは流石に知ってるけど、入りたいのだから仕方がない。


 今日も大輝さんは私に色々と良くしてくれた。

 お姉ちゃんもそうだけど、私のために外の景色を見せてくれた。

 山の景色なんてほとんど見たことがなかったから楽しかったし、ロープウェイなんて、壮大で本当にすごかった。しかも今度遊園地とかにも連れて行ってくれるみたいだし。

 私の楽しみが増えた。


 あくまでも私の立場としてはあまり高望みするべきではない。でも、お兄ちゃんは私の望みをかなえてくれたのだ。


 私の人生は所詮借りものみたいなものだけど、そんな人生に光をともしてくれたお母さん。そして大輝さんとお姉ちゃん。


「私幸せなんです。大輝さんのおかげで。私だって、男は女の胸を見ると興奮することはわかtぅて増す。でも、私は大輝さんになら興奮されてもいいと思ってます」


 お姉ちゃんが何を言ってるの? この子みたいな目で見てくる。でも、私は。


「大輝さんと一緒にお風呂があ入りたいです」

「……分かったわ。でも、私が上がった後ね」

「ありがとうございます」


やった!!

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