第7話 お出かけ
そこから暫く平和な生活が続いた。
まだ、組織のことも、世界共通等のこともまだ何も考えられていない。
何しろ住所が分かったところで、当然責められないのだ。
だが、一つ変わった事がある。
奈々が俺の家に住むこととなったのだ。
元々奈々は一人暮らしだったという事もあり、俺を仮想彼氏として許可を貰って来たのだ。
「今日からは一緒に住めるね。春ちゃん」
「うん、嬉しいです」
そう言って椅子で足をバタバタさせる春。喜んでいるのだろう。
「でも、春ちゃん、暫く暇だよね」
「え?」
「アニメ見てるけど、外には出れないわけだし」
「ですね。拘束されているので、すぐに通報されて終わるだけかと」
「そうか」
「でも、日の光を浴びたいのは浴びたいです。だって、ずっと部屋の中ですから」
下手したら今の状況は春にとって一般的な囚人よりもしんどいのかもしれない。
勿論、春は何の罪も犯していないのにもかかわらずだ。
「春。俺も春と一緒にどこか出かけたいよ」
「そうね」
そして奈々が考え込む。
「ねえ、カラオケはどう?」
「無理だろ。今やカラオケは監視カメラがたくさんついてる。人数詐称や、カラオケ内での不埒な行為などを避けるため。そんな中、春が歌ってたらどうなる?」
「そっか、ボウリングもダメ、ゲームセンターもダメ、そうだ、いい案を思いついた」
「いい案?」
それは俺らで、電話をしながら街を歩くという物だ。
携帯電話で景色を映しながら、イヤホンで春と会話をする。
しかも、ワイヤれるイヤホンを使えば、二人で一緒に訊ける。
そして早速俺たちは出かけた。
そしてすぐにカメラ機能をオンにして、町の風景を流す。
「どうだ? 春」
「……いい景色。初めて、こんなもの見る」
確かにだ。春にとっては久しぶりの景色ばっかり、中には初めてのものも含まれるだろう。
「すごい。空がきれい」
画面は春の方はビデオモードにしてないが、恐らく興奮してることは間違いなしだ。
あて、これから向かうのは、山だ。自然を堪能するには一番の場所だ。
本来なら春にも自然の空気を堪能してもらいたいところだが、流石にそれは厳しい。
「ほら春。これが木だ。綺麗だろ」
「うん。綺麗。なんか緑がいっぱいで楽しい」
「そうか、そうか」
「大輝君、何にやけてるの?」
「いや、春が楽しそうでよかったなって」
辛い思いをしてばっかだし。
早く、世共党を何とかして、春を自由にしてやりたいところだ。
だが、今は山道とはいえ、その話はできない。
ここに関係者がいたら一気に終わるのだから。
そのまま山道を歩くこと十分。
すると公園に来た。
「公園」
俺はそう呟く。そしてその瞬間、とある可能性に気付いた。
「奈々、少し持っていてくれ」
「う、うん」
奈々にスマホを持たせ、俺はブランコに乗る。そして、
「奈々、俺の額にスマホを張り付けることは可能か?」
「可能だと思う」
そして軽く頭に固定し、
ブランコを漕ぐ。こうすることで、向こうの春にも、ブランコで漕いでる映像が共有される。
「わーたのしい」
そう向こうにいる春が言う。
「私、ブランコとか人生で乗ったことがないから、嬉しい」
「そうか」
そう言われるとこっちまで嬉しく思う。
「なあ、春」
「はい」
「お前は、そう言う楽しみを知らずにやって来たんだな」
「うん、公園なんて言ったことがない」
「そうか」
そう思うと、ますます春のことが哀れに思ってしまう。
せっかくの楽しい時期を組織に捕らわれ、地獄の中で暮らしてきたのだ。
そんな話はほかにないだろう。
「なあ、春。俺は絶対にお前をこの地獄から解放してやる。だから、その時を待っててくれ」
「わかり……ました」
「じゃあ、もう少し今はブランコを楽しもうな。……そーれー!!」
「あはははは」
春は笑っている。だが、風を感じた方が楽しい。
今の春は真に楽しめているとはいいがたいからな。
そしてその後、奈々と一緒にシーソーしたり、一緒に、滑り台を滑ったりした。
「これ、もしかして、カラオケも行けるか?」
ふと思いついた。
何しろ、スマホ越しで歌えばいいだけなんだから。
「すみません。それは辞めといたほうがいいと思います。スマホ越しで歌が聞こえるようにするには、声を張り上げなければいけませんし、リスクが高まります。私のために行ってくれたのは感謝しますけど、それは危険です……」
「そうか……」
確かに、俺たち以外の同居人の姿が見えたら、大変な事になる。
確かにやめといた方が良いだろう。
「じゃあ、あとできることは何だろうか」
そしてともに、公共施設を使うのは辞めた方がいい気がする。
こういう、場所じゃないと。
「次は、ジェットコースターに行くか」
そこの映像をカメラでリアルタイムで体験させる。
「それは……」
どうなんだ?
「いいアイデアですね」
良かった、認められたか。
「それで、今日は次何する?」
「そうだな」
まだ、三時だ。時間はある。家に帰って、大翔色々するのもありな気もするが、せっかく外の場所を見せる機会なのだ。
「そうだ」
俺はふと思いついた。
そして向かったのは、電車だ。
電車と言っても、ロープウェイだ。
ロープウェイだったらまさしく山道を見せてくれる。
一番のうってつけの場所だ。
しかも運がよく近くに会った。
ここのロープウェイはあまり高くなく、往復八〇〇円で行ける。
春に景色を見せるためなら八〇〇円など高くはない。
それに、頂上に登れるからその景色もみさせることが出来る。
そして俺たちの乗ったロープウェイはどんどんと上に上がって行ってる。
そしてガラス張りとなっている床の方へとスマホを当てる。
その景色がどんどんと動いて行ってて壮観だろう。
「すごいです」
そう、元気よく春は言った。
「これ、本当にすごいですよ。だって、どんどん動いてて。言葉じゃ纏まらない」
テンションが爆上がりのようだ。
良かった。
「今度は横を映してくれませんか?」
「ん、分かった」
横を移す。そしてその際に「もう少し左」などと、春から指示が入るからそれに従いスマホを動かしていく。
そのたびに興奮する春。
春は正直、年齢よりも大人びて見えるから、子供っぽい春を見れてよかった。
「奈々、こういうのっていいな」
「うん。春が喜んでるし、周りの景色もきれい」
「だな。いやー我ながらよく思いついたよ」
「そうね、大輝にしてはやるじゃん」
「……お前」
「大輝さんは頑張ってると思いますよ。だって、ここに来れてよかったと思えてますから」
「そう思ってくれるほど、嬉しいことは無いよ」
そして頂上。
そこから下の景色が一望できる。
個々ならあの某名セリフも言える。
本当に街がゴミのように感じる。
「ほら、春。いい景色だぞ」
そう下へとスマホを伸ばす。春に山からの景色が自在に見えるように。
そして、ぶんぶんと腕を振りながら下の景色を映し映し映しまくる。
「大輝、落とさないでね」
「分かってるよ」
そんなに間抜けじゃないよ。
ただ、少し怖いのは怖いが、この春の笑顔に比べたら全然大したものではない。
ゆっくりと山を旋回しながら取る事四十分。
そろそろ最終便が発射するという事で、俺たちはそれに乗る。
五時に閉るのだ。
「なあ、奈々」
「何?」
「今日はスーパーで買いたいんだけどいいかな」
「なんで? ……いや、分かった」
すぐに意図が伝わったようだ。
春は外食が出来ない。だったらせめてもの外食気分を味わわせようという訳だ。
だが、このままでは春の生活費を賄いきれんな。
そろそろバイト数するか。
そしてスーパーでは、春は寿司をご書房だった。
二〇パーセントオフの寿司を探す。
運のいいことにすぐに見つかった。
それでも一〇〇〇円かかり、結構なお値段だが、春のためなら仕方のない事だ。
更に春は欲しがったため、春だけで一八〇〇円もの出費となった。
ふふ、バイト確定だな。
追加でポップコーンも買った。
どこかの日に映画祭をするためだ。
そうして家に帰った。
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