第3話 拘束少女のお留守番
翌日。SIDE大輝
俺は七時に起きた。まだ春のせいで眠たかったが、学校に行かなくてはならない。
まず朝ご飯を作る。やはり、昨日と同じく料理を作るのは新鮮である。
今日もソーセージは流石に飽きるだろう。
簡単にチャーハンを作って、春に食べさせた後、
「それじゃあ学校に行ってくる」
そういった。だが、その言葉に春は「え? 私一人になるんですか?」と返す。
俺が学校に行くのは想定外だったらしい。
「そうだな。心配だが、八時間ほど我慢してくれ」
「暇です。私も学校に連れていってください。学校なんて小学校が最後なんですから」
「もしそれをしてしまったら俺が逮捕されてしまう。ただでさえお前を匿うだけで危険なんだから我慢しろ」
「はあ、仕方ありませんね。納得しときます」
そう言って、彼女はため息をつく。だが、それは見た感じ悪戯なため息に見えた。
こいつ、もしかして分かって言っているんだろうな。
そもそも拘束されてなくても、学校に連れて行くなんてダメに決まってるのに。
「じゃあ行ってくる」
そして、俺はベッドの近くにお茶が入ったコップと、間食用の昨日の残りのソーセージを置いて、家を出た。今の状態の春を一人にしておくのは少し申し訳なく思うが、仕方ない。
学校に行くのは、学生の義務なのだから。
「おはよう大輝くん!」
クラスメイトの松下菜々が話しかけてきた。
「おはよう菜々」
俺も返事する。
「なんか今日疲れたそうな顔してない?」
「なんか昨日あんまり寝れなかったからな」
「なんで?」
「わからん」
まさかその理由が拘束された少女のせいとは言えるわけがない。まず信用されないだろうしな。
「もう、私が添い寝してあげようか?」
「やめろ。お前の場合冗談かどうか分からん」
それにそうした場合でも、同様のことが起きることが想定されるし。
「うふふ。本当にしても良いんだよ?」
「まったくお前という奴は」
まじでこの人よく分からん。もうかれこれ一〇年近くの付き合いなのにな。
「さてと、今日も大輝くんいじるの楽しいな」
「お前俺以外にやるのはやめとけよ」
俺以外だと、へんな誤解を招いてしまう。
例えば、好きだと勘違いさせるとかな。
「はーい」
押して授業が始まる。だが、授業中にも春のことを考えてしまう。
一人で残しているわけだし、暇にでもなってないか心配だ。
今家で何をしているのだろうか。……いや、へんなことを考えるな、変態になってしまう。
今は学校。ちゃんと授業を聞けよ、俺。
「ねえ、今日の放課後遊ばない?」
「なんで?」
「暇だから」
「暇だからって、俺以外に人はいないのかよ」
「私の親友は大輝くんしかいないよ」
「そうだったか?」
結構奈々と親しい人はいるはずだけどな。
「まあ、でも今日は無理だな」
「なんでよ?」
「気分だ」
家に腹を空かしている少女がいるとはまさか言えるまい。
無理矢理だが、そう、言い訳するしかない。
帰りが遅くなったら春の暇な時間が増え、さらには昼ご飯も食べていないので、お腹もすいているだろう。
「ふーん、絶交しようかな」
「いやいや、本当は家で予定があるんだ。小さい従兄弟が来ていてな」
従兄弟では無いが大まかは合っているだろう。親の知り合い
「じゃあ私大輝くんの家に行って良い?」
「なんでそうなんだよ!」
「私子ども好きだし。私頼りになるよ!」
拘束されている幼女でもか!?
「いや、やめといた方がいい、あいつ面倒くさいから」
来られたら困る。来られたら困る。来られたら困る。
「分かった我慢しとく。大輝くんがそんなに家に来られるの嫌なんだったら」
「そうしとけ」
ふーなんとか急場は凌いだか。
SIDE春
「暇だなあ」
大輝君が去って三〇分もしないうちにそう思ってしまった。
とりあえずベッドで寝ているが、今の私には移動もできないし、漫画を読むこともできない。
せめて彼がいてくれたらいいのだが。
「うぅ、トイレ行きたい」
思えばトイレに行く方法なんて今の私にあるのだろうか。
漏らすのは嫌だけど、トイレまで行く方法がない。今日の朝は、彼にトイレまでついてきてもらって助かったけど、今の私には到底無理だ。
トイレのドアを開けることもできないし、ズボンをずらすこともできない。
おむつでもはかせてもらったらよかった。そんなこと今考えても無駄だけど。
「あ」
おしっこを漏らしてしまった。だけど、冷静に考えて大の方じゃなかっただけ良しとしよう。
とりあえず、布団から出て、ソファーの方にうさぎ跳びで向かった。足枷のせいで移動速度が遅いせいでイライラした。
分かってはいたことだけど、一人だとまともな移動なんてできない。
そして、ソファに座った。
とりあえずおしっこに関してはズボンが濡れて気持ちが悪いけど、そこはまあもう何とかなった。
でも、やっぱり暇だ。
彼が帰ってくるまで残り六時間。
寝よう。
SIDE大輝
「ただいま」
「おかえり、暇だったよ」
帰った瞬間、犬のように春がこっちに来た。とはいっても、歩けないので、その速度は遅かったのだが。
そんな時、彼女の股が濡れているのに気が付いた。
「もしかして……」
漏らした? と言おうとしたが、すぐさま失礼にあたるのではないか。そう思った。
だが、「すみません。……漏らしてしまいました」と、自分から言った。
恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに。
そんな羞恥あふれる顔を見て、これじゃだめだと思った。
今も尿がズボンにしみこんで気持ち悪いのだろう。
ソファーも拭かなければならないが、まずは春だ。
「そうか、何か対策でもしなければな」
「そう、ですね」
「てか、悪かったな留守にして」
「そうですよ、謝ってください」
「調子に乗りすぎるなよ!」
しかし、本当に着替えとかどうしようか。
感じ的に服とか脱ぐことができなさそうだし。
そんな時だった。
「ピンポーン」
む? 誰だ?
宅配便とか頼んだ覚えはないのだが。
「少し待ってろ」
そう春に告げて玄関に行く。
「私、菜々だよ! 従兄弟の顔が見たくて来ちゃった」
ああ、今一番来てほしくないやつが来てしまった。
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