10 述懐(じゅっかい)

 〝石造りの小屋″でヒースがミツヤを発見する数分前――。

 ドクはアラミス達が世間の噂になっている「青い疾風ブルーゲイル」のメンバーだと気付いた。


「第三隊のルエンドさん、だな。僕は第二隊の救護要員のスタンリーだ。『ドク』と皆は呼んでる」


 身長はアラミスより若干低い。

 体は瘦せ型ではあるがガッチリめで、彫りが深く整った顔に髪と瞳は深いグリーンだ。

 白衣のポケットに手を突っ込んでいる。


「トージ総隊長が数日前にこの研究施設の裏にある〝石造りの小屋″に少年を連れて行ってるのを見かけた。君達はその少年を助けに来たんだろ? トージ総隊長が厳重に管理しているから何の為の小屋かは分かりかねるが」

 アラミスの銃弾を受け、ルエンドからナイフで切り付けられたにもかかわらず、怒りや戸惑いすら感じとれない。

 そんなドクにルエンドが詰め寄った。


「ドク? あなたは一体ここで何をやってるの?」


 ドクは沈黙した後、ルエンドの質問には答えず目を伏せた。

「……君達は今世間を騒がせている『青い疾風ブルーゲイル』だな?」

 アラミスとルエンドは口を閉ざしているが、それに構わず手薄なゲートを指さして言った。

「巡回してる護衛隊の目に留まらないうちに早く逃げろ」


「ドク、撃ってすまなかった。なんで俺達に協力してくれたか分らんが、今は急ぐ」

 アラミスはその〝石造りの小屋″にミツヤがいる可能性を感じ、急いでその場を立ち去ろうとした。


 そしてドクは背を向け、研究施設の建屋に戻ろうとして足を止める。護衛隊員に気付かれてしまったようだ。

 研究施設の中から出てきた二人の男はドクの属する第二隊の隊員だった。

 問題は三人が一緒にいるところを発見されたことだ。


「誰だお前達、ここで何をやってる!」

 その声で、アラミスとルエンドの二人はダッシュで物陰まで滑り込み、暗がりに身を隠した。


「ジェイムズ、お前は侵入者を追ってくれ」

 隊員のジェイムズはアラミスとルエンドの二人の後を追ったが、既に二人を見失っていた。


「ドク、奴らに何を喋った!?」

 もう一人の隊員がドクの前で剣を抜く。

「て、白状する訳もないか。大体おまえ、おれ達の周辺をコソコソ嗅ぎまわってたろ。前から怪しい野郎だと思ってた。もう反逆者とみなしてもいい頃だ! ジャック隊長から聞いて知ってるぞ、首を落とされたら死ねるんだろ?」


 アラミスは建屋そばの木の陰に隠れて様子を見ていたが、ドクの立場が悪くなっている事に気付き、ハンドガンの撃鉄げきてつを引いて狙いを定めていた。

 ルエンドはアラミスの後ろでダイナマイトの点火準備をしている。

 

「シモンズ先輩! この暗がりで見失いました……て、どうしたんです? この状況は」

 もう一人の隊員ジェイムズが追跡をあっさり諦めて戻ってきた。第二隊の隊員の任務遂行能力はだいたいこの程度だ。

「何考えてんだか分かんねぇ、不気味な野郎だ。こいつさっきの侵入者と繋がってる。ここで始末だ」


 無表情――というより何も考えていないようなぼんやりとした表情で、ドクはさらりとこぼした。

「そうだな。頼む、殺してくれ」

 

「いい度胸だ、そこに膝をつけ! だが覚悟しろ、この剣は隊長の剣ように一振りで骨まで断ち斬れるような代物しろものではないぞ」


 アラミスはドクの言葉に自分の耳を疑った。

「あいつ、何言ってやがんだ……?」

 

「こいつの自殺願望、ヤバいっすよね先輩。入隊してからずっと生きてるのを恥じて来てますよ」

「ああ、だから皆こいつを『生き恥のドク』って呼ぶんだ」


「ね、アラミス、ドクを助けましょう」

「当然だ」


 ドクは地面に両ひざをついて、頭を下げる。


「狙いは完璧……」

 アラミスは膝をついたドクの横で大きく剣を振りかぶった隊員シモンズの手を狙い、ハンドガンの引き金を引いた。


 銃声と共に悲鳴が上がる。

 手に命中したシモンズは剣を落として地面にうずくまった。

「野郎! どっから!?」


 発砲したアラミスの方向をジェイムズが見定めた時にはもう次の銃声が響き、足を撃たれたジェイムズは地面にしゃがんで悶絶もんぜつしている。


「ドク! 一緒に来てくれないか、あっちで火の手が上がってるのが見えた。嫌な予感がするんだ。多分あんたのドナムが必要になる!」

 アラミスはそう言うと不死身の青年ドクの腕を引っ張り、強引に彼を連れてルエンドと三人、炎で燃え盛る小屋を目指し走った。

 

「あそこだ! くそぅ! もの凄い炎が上がってる!」



 長さにして二百メートル程の研究施設の建屋沿いに森の方角へ走ると、暗がりの中大きな炎に包まれた小屋が見えた。

 距離があっても熱が伝わってくる。


 異世界への穴がある 〝石造りの小屋″では、怒りに身を任せたヒースが右手に刀を持ち、体からはオレンジではなく深紅の光が浮かび上がっていた。


 近くまで行くと、部屋の奥に小さな隠し扉が開いているのが見えた。

 トージはそこから既に外に出て逃げたようだ。

(あの炎の威力はいったい何だ……! あの刀もオカシイ。なんでオレが握ってんのに勝手に炎が上がったんだ? あそこに居たら丸焦げになるとこだった! ちきしょう、雷系は惜しい能力だったが始末出来ただけでも良しとするか。一旦ここは引こう)


 我に返ったヒースはミツヤを仰向けに起こしたが、すぐ小屋から出てトージを追うこともせず、じっちゃんが腕の中で息をひきとった場面と重なって一人取り乱していた。


 刀は石の床の上でまだ炎を上げている。


 〝石造りの小屋″は火が回り始め、それはミツヤの服にも移っていた。

 ヒースの左手から上がった炎は肩にまでい上がり、シャツの袖と左身頃ひだりみごろまで完全に焼き尽くした。


「ミッチーごめんよ、こんな事になるなんて。俺、もうどうしたら……」

 その時、後ろからアラミスの声がする。

「おい、ヒースだろ! 大丈夫か!?」

 アラミスは炎を避けながら中をのぞいた。


「うわっ! 何だその赤い光は……!?」

 ヒースにアラミスの声は届いていない。

 ミツヤが横たわるかたわらに膝をついて、深紅の光に包まれたまま呆然とすることしか出来ないでいた。


「待て、すごい火だ! 引き返せ、火傷だけじゃ済まないぞ!」

 ドクが叫んだが、アラミスは聞く気がない。服を焦がしながら、それでも躊躇ちゅうちょせず中へ入っていく。


 腹から大量出血して意識を失ったミツヤを抱え、大急ぎで建物から出るとすぐさま平な地面にミツヤを寝かせた。

 ミツヤをかついだアラミスの袖や上着は血でベットリだ。


 ルエンドが真っ青な顔で両手を口元に当て、何度もミツヤの名前を呼ぶ。

 ジェシカは言葉もなく、ただ呆然とミツヤの顔を覗き込んだ。


「まだ息がある。恐らく大丈夫だ」

 ドクは横に寝かせたミツヤの胸に手を置いた。

 体がグリーンの光で覆われていく――。

 数秒で手を覆うグリーンの光がいっそう眩く光り出し、見る見るうちに傷口が塞がっていった。


「ええ? ミッチー! 助かったのか?」

 ヒースは涙目でミツヤを揺さぶり、暫くするとミツヤの目がゆっくりと開いた。

 皆がドクをドナム系イントルーダーだと知った瞬間だった。


「顔のこの火傷の跡は無理だ。この傷跡は恐らく彼が異世界へ来た際のしるしだろう、悪いがこれは消せないんだ」


 ヒースの体からは光は消え、落ち着いたようだ。

「ありがとう、ありがとう……! ミッチーを助けてくれて」

 見知らぬ青年に何度も礼を言った。

 あまり表情を変えないドクだったが、ヒースの涙を見て少し目元がゆるんだ。


 ゆっくり辺りを見て、まだ追っ手が来ないことを確認するとドクはアラミスに視線を移す。

「アラミス君だったか? 早く君も手当しなければ……! 腕と顔見せてくれ」

 ドクは大火傷おやけどを負った患部に手をかざし、同様に治した。


 暫くするとミツヤがゆっくりと体を起こしていく。

「ヒース? あー、あれ? 無事だったのか、よかった」


「何言ってやがんだ、俺のことよりお前だよ、本当に体大丈夫なのか?」

「うん、僕はどうやら大丈夫みたいだ。このとおりピンピンしてるよ」

 と、バック転まで披露した。


「ミッチー、もうダメかと思ったんだからー!」

 強がりなジェシカは自分の苦しい時でも滅多に涙を見せたことはなかった。だが、今回ばかりは堪えきれず片手で目を覆い、指の間から涙をこぼして声を上げている。

 ミツヤは、そんなジェシカの頭に手を置いて一言、「心配かけたな」と言葉をかけた。


「本当によかった、ドク、あなたのお陰よ!」

 ルエンドはドクの両手を包むように掴んで上下に振って何度も感謝の意を表した。


「ミツヤ君だね? 君はこんなに仲間に慕われてる、自分を大事にしないとな」

 ドクは優しい目でミツヤにさとすように言った。


 すると、ドクの言葉を裏返すかのようにミツヤはゆっくりと、自分の胸中を明かし始めた――。



「僕は……皆を捨てて自分だけ元の世界に戻ろうと一瞬でも考えてしまった、卑怯な人間だ。なのにいざとなると結局、戻る勇気も起きなかったんだ。だって、前の生活でも嫌な事から逃げて来てたから……! それに僕はヒースみたいに誰にでも優しくは出来ない。こんな自己中で逃げてばかりの腰抜けなんか、どこへ行っても足手まといだ。これが本当の僕なんだよ……」


 それは今までこの異世界で強がって生きてきたミツヤが、初めて皆の前でこぼした弱音だったのかもしれない。

 うつむいているミツヤに、ヒースはどういう訳か安堵にも似た表情をして、フッと笑うと自分の心の内を語り始めた。


「お前が元いた世界に戻りたいって考えたくらい、どうだっていうんだ、イントルーダーなら誰でも一度は思うんだろ? それに俺達に優しいだけで充分じゃねぇか、そんなんで自己中なら俺なんか、斬り込んで行く時はいつも自分の都合しか考えてないぞ?」

「分かってんなら直せ」

 と、腕組したアラミスが指摘した。

 ヒースはアラミスに一瞥するとミツヤを真っ直ぐ見た。迷いのない目だ。


「いいか。元いた世界に戻ろうとして、でも止めて今ここにいるのが俺の知ってるミッチーだ。あっちの世界で何があったか知らねぇが、逃げてきたから今の自分があるんだろ? なら過去の自分も認めてやれよ。だって俺達はお前のいた世界から逃げて来たに何度も助けられたんだからな」

 ヒースはミツヤの肩に手を置いてダメ押しとばかりに意思を伝えた。


がいないと俺が困る! これが俺の本音だっ!!」


 ミツヤの胸に疾風が吹き抜けていく――。


 ミツヤが顔を上げるとそこには、右頬にホクロがひとつ、いつもの見慣れた顔があった。

 生意気で自由奔放、しかしどんな時でも諦めることを知らない、頼れる存在。

 「ヒース……」


 暫くしてミツヤの頬を涙が一粒伝った。


 一度こぼれ始めた涙は、せきを切ったかのように次々とあふれ出した。Tシャツの胸元で何度もぬぐってみても、止まることはなかった。


 ルエンドが黙ってミツヤを後ろからギュっと抱きしめる。

「ちぇっ! 羨ましいな! ……けど、今は許す!」

 ジェシカはつま先立ちになり、目いっぱい手を伸ばして悔しがるアラミスの頭をなでた。

「アラミス、成長したねー!」


「ミツヤ君、皆も急ぎましょう。この続きはアジトに戻ってから! ここは敵地よ、すぐに隊員達がやって来る」

 そう言ってルエンドがニッコリと微笑む。


 ドクの目にはもう何十年も前にとっくに捨ててしまった、甘くノスタルジックな光景が映っていた。

 ポケットに両手を入れて、どこか遠くを見るような目で彼らをぼんやりと見ていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アジトに戻ってきたのはもう夜明け前だった。


「いいのか? 護衛隊員の僕をアジトに案内して……」


 道中ずっと黙りこくっていたドクがやっと口を開いたかと思うと、今更何を言い出すのだろうと感じる言葉を吐き出した。

「なーに言ってやがんだ? あんたにそんな気があるなら、ミッチーや飛んで火に入ったこいつを助けたりしないだろ」

 そう言ってヒースはアラミスにチラリと視線を送る。


「てめぇ、おれを無策なアホ扱いしたか!? したよな! お前が自分で火ぃ付けといてボーっとしてやがったからだろうが! ミッチーが火だるまになるとこだったぜ、ったく」

 アラミスがヒースにくってかかった。


「それは……ホントに悪かった!」


 ヒースの素直な態度にジェシカがクスッと笑う。いつものメンバーの雰囲気が戻ってきた。

 ドクも護衛隊に追われる身となったことや仲間の命の恩人だということもあり、色々情報を聞く為にもドクをアジトに連れて来たのだ。

 アジトのリビングに入るといきなりアラミスがヒースに気になる点を訊ねてくる。

 

「ヒース、お前のドナムカラー、真っ赤だったぞ? なんだあれ?」

「俺も覚えてないんだ。でもあの時は気が動転してるというか……」

 そういいかけた時、皆の雰囲気に気持ちがほぐれたのか、ドクがすぐに反応した。

「僕も全貌は知らないが基本的には白だ。しかしドナムの力が強い者はカラードと呼ばれて、大きく2パターンにわかれる。戦闘系のドナムが赤などの暖色系で、技術系が青や緑などの寒色みたいだよ。あとは放出エネルギーに比例して濃くなるのではないかと……」

 ヒースの場合は、興奮状態にあったため、一時的に深紅にまで変化したのではないかとドクは言う。それを聞いたミツヤは、視線を天井に向けて何やら考えていた。


(てことは、僕はまだ伸びしろがあるってか……?)


 まだ何となく話がしっくり来ていないヒースは暫く口をへの字に曲げていたが、気を取り直してキッチンから椅子をもう一つ運んで来る。そしていつもの男子部屋へ置くと、丸テーブルに皆を集め早速ジェシカと二人で檻の中に見たものを伝え始めた。


「ああ、確かに護衛隊のマントやらブーツもあった。血まみれで千切れてたがな」

 その話にドクは動揺を見せた。


「な、なんだって? まだそんなことを続けてたのか! 僕は総隊長に何度も止めるよう言ったんだ、その引き換えに檻の存在を口外しないという約束でね! 以前にも護衛隊お抱えのガンスミスだった男がそれを見てしまい、口封じに殺されたって聞いたことがある。僕は」


 言いかけたドクの言葉をさえぎるようにアラミスがテーブルに手をつき、身を乗り出した。


「それは、その男は俺のオヤジだ……!」


 一瞬でその場の空気が凍りつき、数秒沈黙が続いた。

「そうだったのか、君がコンラートさんの息子だったのか」

 ドクは暫くうつむいていたが、アラミスに何があったか説明を始めた。


「何年前だったか、総隊長と護衛隊員が人間を連れて来て異形獣まものの檻に入れている場面をコンラートさんが目撃したんだろう、檻の鍵を盗み出して助けたそうだよ。だが、翌日それが発覚してしまい、国外に脱出しようとしたところを見つかって……殺害されたと聞いたよ」

 アラミスは暫く言葉が出なかった。


 額に手を当ててうつむいたままどれくらい経ったか、アラミスは一言「ありがとう」と漏らしたあと、ゆっくりと話し始めた。


「俺はずっとオヤジがなぜ殺されなければならなかったのか、ずっと知りたかったんだ。あれから一人で何度か駐屯所内に潜入もしたが、何も掴めずにいた……オヤジはやはり、何も恥じることはしていなかったんだ」

 ミツヤが「それどころか、勇気あるオヤジさんだな」と言うと、アラミスは僅かに頷いた。


「アラミス、一緒にやるだろ? トージのヤツを……!」

 ずっと黙って聞いていたヒースはアラミスの目を見て切り出した。

「たりめぇだ!」


 そしてドクは今までの経緯、知っていることを全てヒース達にゆっくりと伝えた始めた。


「では僕が知ってることを話そう――」

 ドクが知っていること、ミツヤがトージから直接聞いたこと、ヒースがハンスから聞いたこと、更にアラミスの推測などを交え仮説も含めて次のことが判明した。


 1、トージは二年程前に誰かが穴から出る

   ところを偶然発見した。

 2、その穴から出て来た人間に聞き取りを

   することで、やって来る人間は所謂いわゆる

   イントルーダーと呼ばれる、元いた

   世界からやって来た人間だと知った。

 3、穴はずっと同じ場所に存在することも

   確認できた為、トージは自ら穴から

   出入りする人間を秘密裏に管理しよう

   と「石造りの小屋」を建てて遮断した。

 4、トージはこの異世界に来てしまった男

   が元の世界に帰る瞬間を見ており、

   その男が再び戻ってきたところにも

   立ち会っていた。

   ――入って数分後、彼は異形獣まもの

   となった。

 5、トージは異形獣まものが人間の変化した

   ものであることを立証するべく、

   国内のイントルーダーを捕虜にした。

   そして彼らを使ってこの世界に戻った

   者が異形獣まもの化するのを確認していた。

 6、トージは次に、ドナム系イントルーダー

   を異世界と繋がる穴に入れる為、現在

   ドナムを有するイントルーダーに絞り、

   理由なくバスティールへ連行している。

 

 それらの話をまとめ終わると皆お互い顔を見合わせて沈黙が続いたが、暫くしてヒースは自分が見た異形獣まものの檻の情報を基に、更に次の仮説をたてた。


「なぁ、俺は今日、檻の中にハンスっていうイントルの知ってる奴を見たんだ。しかもそいつ、半分人間になりかけの異形獣まものの姿だったんだよ」


 ヒースのその話が出た時、ドクの眉の端がピクリと動いたようだったが、何も言わずヒースの言葉を待っているようだ。


「それで俺は思ったんだが、あいつらイントルーダーは異形獣まものに変化してしまっても、何かの条件で人間に戻れるんじゃないか?」

「なんだって!?」

 ドクを除き、驚いて全員立ち上がってしまった。


 しかしドクは落ち着き払い、伏目ふせめがちにヒースの問の答え合わせを始めた。


「彼らが調査を続けてきたところによると……異形獣まものは人間を喰うが、檻の中の実験でひと月何も食べさせないでいると人間に戻った者がいたようだ。ここから先はまだ仮定の話だが……異形獣まものは恐らく人間に戻れると思う」


「な、なぁ。じゃぁあの檻に入ってる異形獣まものは皆、元イントルーダーでなんとかすれば人間に戻せると……?」

「まだ確実には断言出来ないが、僕はそう考えている」

 ドクは更にこう続けた。


「今まで気付けなかった理由は当初、彼らを集団で一つの檻に入れていたからだ。同じ檻の中、ひと月かけて人間に戻った者が現れたにもかかわらず、誰にも気付かれることもなくすぐに他の異形獣まものに喰われていたんだろう。管理していた者は彼らの数が減ったことしか気付かなかったんだ」


 ドクの話では、異形獣まものは基本的に人間を喰らうが人間がいない場合は共喰いになるという。

 そこでヒースとミツヤは、ある同じことを考え、自分のしてきた事にゾッとし始めていた。


「なぁ、俺ら……人殺しをしてきたのか……?」

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