4 最終兵器ル・エンド
「ヒース! 一人で大丈夫か――!?」
町の中へ入ったミツヤは、ヒースが料理店の脇で水牛似のタイプ3と格闘してるのが見えた。
この時既に五体目だった。
「ミッチー! おっせーよ、もう終わるぜ?」
ヒースがタイプ3の背に上がって首の上から刀を振り下ろす。
ザシュッ!
緑色の血を吹き出して動きを止めた。
「えええ!? 一人で全部?」
ジェシカはヒースの「ストーム」一味との闘いを見てはいたが、それでも耳を疑った。
それ程に
「うん、この刀のお陰だね、タイプ3なのに今までとは格段に手応えが違う。あと首狙えば早いよ。それよりそっちは?」
「ごめん、実は今から荷馬車一台分、と言ってもさっき入り口で見たあのタイプ2が三体入ってくるよ、でもこれで最後だ」
と、ミツヤが説明しているうちに、ゆっくりと爬虫類系二足歩行の
歩く様子はまるで肉食恐竜だ。石畳の通路が
そこへ息を切らして「
「お前ら、
「あー、俺達全部で三人だから。言ってなかったっけ? なんで、もう全員集合してんぞ」
ヒースは少し口を尖らせ、耳をほじっている。
「なにッ!? さ、三人だと……?」
モルガンは冗談を言われたと思って固まった。
手練れの自警団でも五、六人で協力するところをたった三人で、しかもバラバラで行動しているのだ。
(あれか? 混乱させて時間を稼ごうってつもりなのかッ!?)
目つきが厳つくなったモルガンに、ミツヤが補足する。
「あ、因みにあと三体で終わりです。それとさっき別の護衛隊の隊員が来たんで犯人を任せて来ました」
ミツヤは自分達が不利に扱われないよう、
「バカな! 護衛隊がそんなことをするはずねぇだろ!?」
そこにアランが他の仲間を引き連れてやって来て、やはり子供は当てにならないと言わんばかりに苛立ちながら注意した。
「おい、君達! まだタイプ2が残ってるぞ、立ち話してる場合じゃ……」
「団長、こいつらメンバー全員でこの三人だけらしいですぜ!? しかもオレ達が三体にかかってる間に、このオレンジの髪のヤツが一人で五体も……」
アランと「
そこに先ほどの女性の護衛隊員が
「いいえ、このチームの総メンバーは三人じゃないわ、全部で四人よ!」
「……はぁ???」
ヒースを含めその場にいた全員が同時に口にして、唖然としながら声の方に視線を移した。
すると20メートル程先の石畳に馬から降りた女性隊員が立っている。
「そうだミッチー! あの人、前に会ったハイヒールサンダルの!」
「ああ、六さんとこの地図をくれた人だ! さっきの隊員、あの人だったんだ」
そう、以前に武器屋で地図をくれたスレンダーな女性隊員だ。
今日も七センチもあるヒールのブーツを履き、長いブロンドの髪を風に
「みんな、ちょっと避けてね、そこのタイプ2あたしが片付けるから」
ルエンドはマッチで短い棒の端についている紐に火をつけて、何やらこちらに投げつけた……!
ちょっと目標地点がズレたのか、それはミツヤの目の前に飛んできた。
ミツヤが反射的に手で受け取ってしまったそれは、ダイナマイトだった!
「ううえーっ!? どうしよどうしよ! みんな逃げろ――ッ!」
ジリジリと導火線が短くなる!
ミツヤは古い洋画で見たことがあったので何であるかすぐ察知し、同時にすぐ近くのタイプ2に向けて投げた。
そのわずか一秒後、地面へ落ちる寸前に爆発したのだ。
爆音と共に風圧が一気に押し寄せる……!
「……み、耳が……。ヒース無事か……?」
ヒースとミツヤも、あまりの衝撃でしゃがみこむ。
耳の中でキーンと音が鳴り響いた。
タイプ2は爆発で足が消失し動かなくなったが皆、髪が逆立って顔も真っ黒だ。
「……ケホッ……お笑いコントじゃないか」
ミツヤがぼやいた。
「ごめんなさい! そこのトカゲちゃんに投げたんだけど、ちょっとコントロールミスったかな。まさかキャッチしちゃうとは……!」
謝っている割には仁王立ちで両手を腰にあて、石畳に転がっている全員を見下ろしている。
「コホッ。何すんだよ。殺す気か……!」
呆れ顔のヒースはゆっくりと起き上った。
「つい条件反射で受け取ってしまった……」
ミツヤは両肩をがっくりと落としている。
「さすが、ルエ
ジェシカはその無駄に美しく、そそっかしい護衛隊員を知っていたようだ。
彼女は喜ぶジェシカの顔が早く見たいようで、いそいそとクロスボウを手渡した。
「ジェシー! ほら、頼んでたもの出来たわよー!」
「ルエ姉、すごい! これすごいよ、なんて軽いの! ありがとう!」
彼女の正体に気付いたアランが立ち上がり、手でコスチュームの
「もしかして、あなたは護衛隊第三隊の『最終兵器』と……呼ばれてる? この国で爆発物を扱う者は護衛隊にたった二人しかいないって聞いたことがありますが」
「そうだ団長、思い出しました! 見たことない武器出してきたり、ちょいちょい派手に爆弾を投げて、しょっちゅう仲間まで巻き添えにすることから護衛隊も彼女を投入するのは
口元に手を添えて小声で言ったつもりだが、声が大きく丸聞こえだった。
「その異名は止めてください! た、確かに皆からそう呼ばれたりはしますが……」
ルエンドは顔を赤らめモルガンから視線を外したが、気を取り直してヒース達のところまで近付いてこう言った。
「今日から護衛隊第三隊を除隊して、ヒース、あなた達のチームに所属することになりました、ル・エンドよ、よろしく!」
「は――ぁ??????」
全員が同じ言葉を発した。
「ちょ、ちょっと待てよ、誰が何だって……!?」
意味がわからずオロオロするヒース達に「
「気を抜くな、まだ教会の前にタイプ2が二体いるぞ!」
「僕が行くよ」
と、ミツヤは即座に黄色に光を帯びて一瞬で通りを抜け、教会にうろつく一体のタイプ2の前に立った。
黄色の光が残像となりミツヤの走った跡に軌跡を描く。
見ていた者は皆、何度も瞬きをした。
ミツヤは回し蹴りを二回お見舞いし、軽く助走をつけて飛び上がると三メートル上空からタイプ2の首に電撃のジャンプサーブを命中させた!
「終わりだ!
「やるな、ドンピシャだぜ!」
ヒースが自分で倒したかのように喜んで握り拳を前に突き出したと同時に、そのタイプ2は石畳に巨体を沈めて動きを止めた。
「いったいあの少年は……」
「
その時、ミツヤの後ろにもう一体が大きな口を開けて立っていた。
だが、もう既にジェシカがその首に狙いを定めている。
「あたしに任せて!」
ぺろりと口角を舐めて矢を放つ!
バシュン!
女子が扱うにはあまりにごつい矢だ。
今しがたルエンドから手渡されたばかりの、初めて扱う武器だというにもかかわらず、最後の
バタバタと暴れたがすぐに動きを停止する。
「おいおい、あの女の子、あの細い腕でタイプ2の硬い体に矢を入れやがったぜ! どうなってんだ?!」
モルガンの目が飛び出した。かのように見えるほど驚いていた。
「
「
「これはルエ姉が用意してくれた特注クロスボウよ。使い易くてしかも強力!」
「ええ、これが!? だって、軽すぎるじゃないか。ど、どこで手に入れた!?」
クロスボウはこの国では作れる者がいない為、外国からの商人に頼る他手段はなく手に入りにくいのだ。
しかも、これは彼女の少ない力で引ける特製クロスボウだった。
「うーん、知り合いに作ってもらったのよ。でもごめんなさい、誰にも言わないっていう条件だったから……」
「そ、そうか、そりゃそうだよな。うーん。それにしてもすごいよ、こんな軽くて強力なクロスボウ見たことない。しかも君の腕も大したもんだ!」
その言葉でジェシカはすっかり舞い上がっている。
ルエンドはヒースの耳元で、手の平を添えて小声で言った。
「あれね、ロクサに作ってもらったのよ」
「なんだって!? ジジィ、刀鍛冶じゃなかったのか!?」
「なんでもボディはチタン? とかで、リムと弦はカーボンなんとかっていうらしい。とにかく材料集めも製作も一からで、半年以上もかかったのよ」
「カーボンファイバー? 父さんの釣り竿が確かそんなだったかな」
ミツヤは聞いたことがあったようで口を挟んだ。
「マジかよ、ミッチーの世界ってすげぇな、釣り竿が武器の素材で出来てんのか!」
「いやいや、そういう発想で作られてないし」
ミツヤは手のひらを顔の前でひらひらさせ、きちんと訂正した。
ジェシカは、ルエンドの
「凄い! 腕は噂以上じゃないの、みんな!」
ルエンドはヒース、ミツヤとジェシカの三人の前に立ち、勝手に「
「みんな、これがあたし達『
「あたし達、だと……? マジ誰なんだ、この人。ジジィとも知り合いのようだし」
「オレンジの髪の剣士がヒースで……」
(なんで俺のこと知ってんだ)
「この電撃少年はミツヤ」
「
ヒースが本名で言い直すとミツヤの鼻の奥がむずがゆくなった。苗字までちゃんと覚えていてくれたことが何となく嬉しかったのだ。
「この可愛い娘がジェシカ。ブルタニーいちの弓使いよ」
「ええー、言い過ぎー」
ジェシカは顔を真っ赤に染める。
「そして、あたしがたった今からメンバー入りしたルエンドです! 皆さん、お知りおきを」
ヒースは腕組みしてポカンと口を開け、呆れて突っ立っていた。
ミツヤはポケットに手を突っ込んだままで開いた口が塞がらない。
しかしジェシカは大はしゃぎで、その場でぴょんぴょん跳ねている。
「はは、君達面白いチームだな、気に入ったよ。こちらこそよろしく頼む」
仕事が片付いてホッとしたのか、アランは笑顔で答えてくれた。
このアランとの出会いが、この後「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます