第23話 小田高入学
「美穂、可愛い! 写真撮りましょう」
「えへへへ~~。小田高の制服可愛い~~」
私は家の前でプリーツスカートを揺らして、大きなリボンをキュッと結び直した。
今日は小田高の入学式だ。
結局私はあの事件以来、進路を小田高普通科に変更した。
池田女子高は中学校と同じセーラー服だったので、小田高の制服がブレザーな所はちょっと嬉しい。
お父さんはカメラを持ったまま、
「圭吾くん。美穂と一緒に写真撮ろう」
「いや……さすがにちょっと……ハズいっす……」
「もう圭吾、諦めて。お父さんこういう記念写真諦めないタイプだから」
「ぐっ……」
圭吾はネクタイをグイグイ引っ張りながら頭を下げた。そこにお母さんが飛んできて「せっかく整えたのに!」と直す。圭吾は「うああーー……もう要らないですーー……やめてー……」と頭を上げて叫んでいる。
私のお母さんにも少し愚痴れるようになってきたかな……とそれを聞いて嬉しくなる。
圭吾は真面目だから、離婚後、私の家に世話になりすぎてることを気にしていた。
でもその時、私のお母さんは「未成年は生活を気にせず、自分自身のことに集中する時期。この時間がないと大人になれないわ。生活を守る人は、本当の親に限定する必要はない。今までもそうだったけど、美穂と同じように怒るし、厳しくもする。だから気をつかうのはやめること」を話した。
そういう風に言ってくれるお母さんを、私は尊敬している。
圭吾は「よろしくお願いします」と頭を下げた。
絶対サッカーで国立に行けなんて誰も思ってなくて、ただ圭吾のしたいことが離婚で叶わなくなるのは違うと家族みんな思っている。
それを伝えてから、圭吾は私のお父さんとお母さんにもちょっと文句を言うようになってきて、良かった。
今まで圭吾は記念写真というものを全く撮ってなかったようで、お父さんはカメラ片手にギラギラしている。
私の横に今年三年生になった琴子ちゃんも来て、
「よっしょああ、私がセンターだね!」
「琴子は入学どころか卒業がちけーだろ」
「華の高三に向かって何言ってるの? はーい美穂ちゃんも~」
「わーーい!」
「……もうはやく終わらせてください……」
結局圭吾を真ん中にセットして右が私、左が琴子ちゃんでサンドイッチする最高の写真が撮れた。
圭吾は棒きれみたいに体を細くして、げんなりした表情で笑ってしまう。
お父さんにその写真をスマホに送ってもらって、琴子ちゃんと爆笑した。
入学式が始まるので、私と圭吾は自転車で小田高に向かう。自転車で20分、FCカレッソと反対方向に走るだけでつくのは正直楽だ。本気でこいだら15分で行けるはず。
圭吾は自転車をこぎながらネクタイを緩めて、
「おえええ……ネクタイマジで無理だ。なんでわざわざ首をしめるんだ」
「圭吾のネクタイ姿、良い感じなのに。高校生って感じがするよ」
「マジ? まあ高校生だからな! 美穂、今日から練習くるよな」
「え……部活の入部はもっと後なんじゃないの? 四月のスケジュール見ると月末まで部活見て回る……みたいなこと書いてあったけど」
「それは部活に迷ってる奴らだろ。美穂はサッカー部のマネージャーになるんだから、今日から来いよ、みんな待ってるぜ」
「今日は桃と写真撮りに行く約束してるから、明日からいくよ」
「……はー……どうして島崎が小田高来るんだよ。アイツひとりで池田行けば良かったのに」
そう言って圭吾はため息をついた。
私は桃に進路を小田高に変更すると告げた。
そしたらなんと桃も進路を小田高に変更したのだ。
圭吾は吐き捨てるように、
「アイツ頭良いんだろ? 池田の特進行けよ」
「小田高の選択授業に興味があるみたい」
「ったくよ~~なんだよ~~~」
相変わらず圭吾は桃が嫌いで、ぶちぶちと文句を言った。
桃は「個人的に小田高でやりたいことがあるわ」と微笑んだ。
私はそれなりに桃を知っているので、桃が個人的にやりたいことが、もうちょっと怖かったりするけれど。
小田高はかなり変わった私立高校で、午前中四時間は基礎授業と呼ばれているもので、みんなクラスで受ける。
でも午後から二時間は個人選択授業になる。大学と高校がくっ付いたような学校で、圭吾のようにスポーツ推薦の子たちは午前中のみ勉強して、その後は練習になる。
私は将来栄養士になりたいので、そっち方面をメインで授業を選択するつもりだ。
圭吾はもう何度も練習に来ているので、早く行ける道や、自転車置き場を知っている。
圭吾の後ろについていき、自転車を止めて校内に向かった。
小田高はスポーツに特化した私立高校で、学校がある建物内にスポーツ寮がある。
野球、バスケット、サッカーは常に全国を狙うほど強い。
遠くからこの高校で全国を目指すために来る子も多く……、
「圭吾!」
「末長~~。うおおおお、やっと同じ高校、マジでテンション上がるな」
「末長くんおはよう。制服似合うね。ネクタイ自分でしたの?」
「YouTube見ながらなんとかした。でも何度やっても下が長い、なんだこれ」
そう言って末長くんはジャケットの前ボタンを開けた。そこには下の細い部分がメチャクチャ長いネクタイが結ばれていた。末長くんは前を閉じて、
「まあ誰も見ないからいいだろって」
「ネクタイくらいちゃんとしないとダメだろ~~~?」
「キレイすぎる。これ絶対久米さんのお母さんがやったよね?」
「う~~~ん、ノーコメント!」
私は笑いながら言った。
FCカレッソで小学校の時からずっと圭吾の仲良しだった末長くんが小田高に入学してスポーツ寮に入ったのだ。
末長くんの家は電車で二時間弱の所にあり、通うのが大変だったので、これで楽になる……とずっと楽しみにしていた。
「美穂」
「桃! 可愛い~~可愛いよ桃~~~! めっちゃブレザー似合う」
入り口の所に桃が制服を着て立っていた。私と同じ制服なのに桃のほうが可愛く見える。
私は末長くんの横に立って、
「こちら末長くん。圭吾と同じFCカレッソに居たんだよ。小田高のサッカー部に所属するの。圭吾の仲良し。こちら島崎桃さん。私の親友」
「はじめまして、島崎桃です。FCカレッソで何度か見たことあるわ」
「はじめまして、
「そう。圭吾くんは私のことをとっても嫌いだけど、末長くんは私と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう言って末長くんは頭を下げた。
圭吾は桃に全く近づかないし、相変わらず「ふーん」としてて子どもみたい。
でもふたりの大ケンカを思うと、ケンカしないで居てくれるだけでありがたい。
気を取り直して私たちはクラス分けが配られている一階のピロティーに行き、紙を受け取った。
もう毎日桃と同じクラスにしてえええと神さまにお祈りしてきた! お願い神さま!
受け取った紙を見て、圭吾が叫ぶ。
「なんで末長と美穂が同じクラスで、俺は違うんだー!」
私は紙を見てがっくりする。
「えーーーー、桃と離れちゃったああああ……」
私と末長くんが1-Aで桃が1-C、圭吾が1-Dだった。横で末長くんは苦笑して、
「とりあえず久米さんが同じクラスで助かった」
桃は紙を折りたたんでポケットに入れて、
「はあ……どうして離れちゃったのかしら。悲しいわ」
私は桃の腕にしがみつき、
「えーーーん……。じゃあ同じ選択授業にしよ? それなら週に何度か一緒になるよね」
「もう決めてるから、美穂に来てほしい。あとで話しましょ。今日は撮影だもの」
「うん!」
私は桃と一緒に体育館に向かって歩き始めた。
今日ははじめて制服で登校する日だったので、桃が「スタジオで制服の撮影をしない?」と提案してくれたのだ。
どうやら節目の時は毎回香月さんが、スタジオで桃の撮影をお願いしてるらしい。
スタジオで写真撮るなんて七五三以来だと思う。楽しみ!
体育館は建物の一番上? 五階? にあって、エレベーターで向かう。
学校の中にエレベーターが複数あって、私と桃は列に並んだ。学校内にエレベーターがあるのがすごいー!
人の規模も学校の設備も中学校とは全然違って、私立だああという感じがする。
体育館は天井がガラスで光がすごくたくさん入って、すごく広いホールだった。
「わあ……すごい」
「すてきね」
「あー……でも桃とはここでお別れだー。クラスごとに並ぶんだって」
「あとでね」
桃と離れてA組の列に向かう。するとその列に同じ中学校でバスケ部推薦の
私は駆け寄る。
「平野さん!」
「クラス分けみて、久米さんが居る~って嬉しくなってた~。うちの中学出身で1-Aなの私たちだけだよ」
「中学校から近いし、もっと居るかと思ったら居ないね。あ……末長くん。紹介するよ」
私は列で困っていた末長くんを呼んで、平野さんを紹介した。
末長くんはサッカーで寮所属、平野さんもバスケのスポーツ推薦枠なので、すぐに打ち解けて話し始めた。
良かったー。末長くんは遠くから来てひとりで寮に入るし、何よりFCカレッソで仲良しなので、私がなるべく知り合いに繋げて、楽しくサッカー出来たら良いなあと思う。
隣の1-Bに、同じくFCカレッソだった今村くんもいて、私と末長くんで手を振った。
FCカレッソの子たちがたくさん集まってきてて、楽しいー!
圭吾と末長くん、今村くんの三人がいたら全国見える……と小田高のサッカー部監督とコーチも言ってくれたので、今からワクワクする。
1年生だけでE組まである生徒数の多さ。それに多種多様な……それこそ髪の毛を染めている子もいる自由さで、私は入学式からテンションが上がってしまう。
そして入学式が始まり、学年総代が呼ばれた。
入試で一番点数が良かった人がなると聞いて、桃なんじゃないの?! と言ったら違うのよねー……と苦笑していたけど……? そして舞台に呼ばれた総代を見て私は心の中で叫んだ。
「一年生、学年総代、
?!?! 千颯さん ?!?!
私は顎を前に出して「はあああ??」という顔を絶対していたと思う。
千颯さんってお婆さまに一家で嫌われていて、大阪にいるんじゃないの?!
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